カルチャー
[連載]マンガ・日本メイ作劇場第41回

“女の体”を武器にのし上がる女王様――少女漫画的文脈から外れた『ダークネス』の惜しいところ

2016/01/03 19:00
『ダークネス』(ぶんか社)

――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いてけぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女漫画史にさんぜんと輝く「迷」作を、ひもといていきます。

 女が自分の美貌と智恵を武器にのし上がっていく……。なんかあこがれないですか。自分の体に溺れた男を思いのままに操って破滅に追い込んだり、地位と財力を手に入れたりできたら最高だよね。少女漫画でいえば、知恵と美貌で男を狂わせ世間に復讐していく『吉祥天女』(吉田秋生、小学館)でしょう。さてそこにもう1作品、『ダークネス』(魔木子、ぶんか社)を加えるかどうか……。

 『ダークネス』は戦争末期に、緋沙というとんでもなく美しい娘(しかもすごい名器持ち)が東京で焼け出され、埼玉に逃げてきたところから始まる。伯母の家に身を寄せることになり、そこのごくつぶし夫が緋沙に目をつけて、いきなり襲いかかるのだ。緋沙はたいそう強気な娘なので「あんたと寝る気はないわ」などと言ってその誘いを断るのだけど、そんなことで男の劣情はおさまるもんじゃない。緋沙も「私を抱けば、きっと後悔するわよ」と言ってる割にはあっさり押し倒されて、「イヤ」とは言いつつも、そのうち本人もノリノリに。このあたりですでに緋沙の知性に疑問を持つ読者も多かろう。

 緋沙は近所に御殿を構える久世辰哉というイケメンに見初められ、捕らえられる。久世の御殿には美女が大量に軟禁されていて、夜な夜な官僚たちの慰み者になっているのだ。そこで久世と緋沙は、反目し合いながらも惹かれ合っていく。

 その後、緋沙は御殿を抜け出すために使用人をベッドに誘ったり、東京に着いたら空腹だったので半分頭のおかしい男と関係してイモを恵んでもらったりして、米軍相手の娼館にたどり着く。そこで売春しながら久世と再会したり、軍人に取り合われたりしながら、日本の裏社会の情報を入手し、闇の女王として君臨していくのである。

 この作品、「緋沙がその美貌を武器に男を翻弄し、破滅に追い込み、のし上がるサクセスストーリー」と捉えるべきかもしれないが、何度読み返してもそう思えないのである。彼女がヤリ捨てにされないのは、知恵があるからというよりは、名器を持ってるからなのでは……? と思えてしまう。それ、「自分の美貌と智恵を武器にのし上がる」ドラマを期待する一般人の読者は、どう感情移入すればいいんだか。

 その理由の1つめは、緋沙が作中、なかなか出世しないことだ。全4巻中、彼女が自分の店を持ち、権力らしい権力を持つようになるのが3巻の終盤。緋沙がマダム・ダークネスとして日本の闇の世界にその名前をとどろかせるのは、なんと4巻のラスト5ページなのである。というか、ざっくり「こうなりました」と説明があるだけ。

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