女性も活躍するリアル“佃製作所”を見学 ドラマ『下町ロケット』で注目される町工場の魅力とは?
下町の小さな工場・佃製作所で働く技術者たちを描いたTBSドラマ『下町ロケット』が人気を博している。精密部品の製作をめぐる情熱や人間模様というニッチなテーマながら、最終回を目前にひかえた第9話の平均視聴率は18.2%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)と、今年の連続ドラマの中で好調な1本だ。
男クサイ題材にもかかわらず、女性の視聴者も多いといわれている『下町ロケット』。しかし、実際の町工場でどのような仕事が行われているのか、現場で働く当事者以外はなかなか知る機会が少ないもの。そうしたクローズドな町工場の世界を、一般の人に少しでも知ってもらおうと11月に東京都墨田区で開催されたのが、すみだファクトリーめぐり、通称「スミファ」。たくさんの工場がひしめく墨田区の中、厳選された15の工場が特別公開され仕事見学やワークショップに参加できるイベントだ。
ガラス製品や印刷、プラスチックなどさまざまなタイプの工場がある中、今回は“金属の魔術師”とのキャッチコピーがつけられた浜野製作所を訪れてみた。
■社員ひとりから30 人へ
町工場に興味がある女性限定で行われた「ものづくり女子ツアー」と題されたツアー。まずは、浜野製作所が誇る精密板金加工の様子を見学。板金とは、ステンレスやアルミなどの金属の板材を加工することで、求める形状の製品を作るための技術。精密部品から住宅建材まで、さまざまなものの基礎となる部品を製作することができる。
厚さ9mmの金属まで加工できるというレーザー設備。浜野製作所は多品種で少量の生産を得意としているそう出来上がったものに興味津々の参加者たち金属同士をくっつける溶接の技術を見学。どれだけ正確に溶接できるかが職人の腕の見せどころだとか。
溶接方法のひとつ「TIG溶接」。金属を溶かして一瞬でつなげることができるこちらはプレス加工歴58年の大ベテランでいらっしゃる斉藤昇さん。中学卒業後、集団就職で上京。以来プレス加工一筋で生きてきたという。圧倒的なスピードかつ丁寧に金属を加工しているいまでこそ30人近くの従業員を抱える浜野製作所だが、現在2代目社長を務める浜野慶一さんが先代から会社を受け継いだとき、社員は自分ひとりだけ。当時プレス加工を専門にしながら、顧客のニーズにあわせて板金、機械加工、設計開発などと領域を広げ、徐々に会社を拡大していったそう。
社長の浜野慶一さん実は15年前、もらい火による火事で工場と機材を消失し、無一文に近い状態に。その当時、会社を再建するために格安で購入したのが、浜野社長が手で示すプレス加工の機械。一時期はこの機械だけで生産をしていたそう。現在は、数多くの最新機器を擁しているが、社長が“同志”と呼ぶこの機械だけは捨てられないという。
研ぎ澄まされた職人の技術力に裏付けられた製品づくりに定評がある浜野製作所。最近では深海探査艇「江戸っ子1号」や電気自動車プロジェクト「HOKUSAI」の製造開発に携わるなど、より高度な技術力が求められる事業にもチャレンジしている。
まさにリアルな佃製作所。とはいえ、現実はドラマとはちょっと違うようだ。「下町ロケットはドラマでは見ていないですが、原作は読みました」という浜野社長は次のように語る。
「大企業から無理難題を言われて苦戦しながらも、困難を乗り越えるところに感情移入する人が多いからこそ、視聴率がいいのかもしれませんよね。でも、やっぱり佃製作所は100人を超えていますし大きな会社ですよ。大企業とダイレクトに取り引きできる立場にいるだけでも、中小企業とはいえ別格だと思います。墨田区には2900工場くらいあるのですが、8割は従業員5人以下なんです。ほとんどの町工場は四次下請け、五次下請けなので、理不尽なことがあっても何も言えないことが当たり前。そうした中でも、私たち浜野製作所を含め、町工場の多くは世のため人のためになるものを作りたいという想いと、プライドを持って仕事をしているというところは、佃製作所と変わらないと思います」(浜野社長)
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