『コウノドリ』で綾野剛が見せる“相反”の魅力……安定感とミステリアス、優しさと残酷
TBS系で金曜午後10時から放送されている『コウノドリ』は、「モーニング」(講談社)に連載されている鈴ノ木ユウの同名漫画をドラマ化したものだ。物語は、ペルソナ総合医療センターの産婦人科医・鴻鳥サクラ(綾野剛)の視点を通して、妊婦とその家族、妊娠・出産に取り組む医師たちの葛藤が描かれている。シングルマザーの経済的困窮や高齢出産の苦悩など、妊婦の背後に存在する、今の日本が抱えている社会的問題を丁寧に見せていく。また、妊娠と出産にまつわる知識を正確に伝えようという誠実な作りとなっているため、見ていてとても勉強になる。
また、松岡茉優、星野源、山口紗弥加といった医師を演じる俳優たちはもちろん、妊婦役の清水富美加、足立梨花、谷村美月、そしてシングルファーザー役の小栗旬と、ゲスト出演する俳優が実に豪華なので、俳優同士の掛け合いを見ているだけでも楽しめる。
そんな俳優たちの中心にいるのが主演の綾野剛だ。俳優デビューは『仮面ライダー555』(テレビ朝日系)。いわゆる平成ライダー出身の中ではもっとも出世したイケメン俳優の1人だと言える。
女を惑わす魔性の男を演じることが多く、『Mother』(日本テレビ系)で演じた、同棲しているシングルマザー(尾野真千子)の子どもを虐待する青年のような、ダメな奴だが女がほっとけない男を演じたら天下一品だ。中でも出世の転機となったのは、同じく尾野真千子と共演した連続テレビ小説『カーネーション』(NHK)における周防龍一だろう。
周防は主人公の小原糸子(尾野)が、戦争で夫と死別した後に好きになる妻子ある男性だ。寡黙で細い目のため、表情が読み取れない周防は、そのミステリアスな存在感でお茶の間のハートをつかんだ。この『Mother』と『カーネーション』の2作は、綾野の役柄の典型的なイメージで、よくも悪くも、無口で何を考えているのかわからない幽霊のような青年か、女にモテるクズ男といった役柄が多い。
こういった役は、ゲストや二番手三番手のバイプレイヤーとして登場する時にはとても力を発揮する。そのため、綾野のイメージは「少しだけ画面に登場しておいしいところを全部持っていく」と、いうものだった。
そして、『コウノドリ』は、綾野の連続ドラマ単独初主演作となっている。W主演なら武井咲と共演した『すべてがFになる』(フジテレビ系)があるが、綾野が演じたのはミステリアスな准教授役だったため、今までの立ち位置とあまり変わらなかった。『コウノドリ』のような1話完結ドラマの主人公に求められるのは、物語の進行役で、演技の質も、ただ目立てばいいというものではなく、作品の屋台骨を支える安定感が求められる。『新宿スワン』など、主演映画は増えているが、本作までドラマの主演がなかったのは、綾野のミステリアスなイメージと主演という立ち位置の相性が悪かったからだろう。その意味でも綾野にとって、本作の主人公を演じるというのは、大きなチャレンジだったと言えよう。