『南くんの恋人』中川大志、イケメンの器からはみ出るバカな“男子高校生感”の魅力
◎「イケメン」以外の中川の強み
中川大志は現在17歳。最初に注目されたのは『家政婦のミタ』(日本テレビ系)の阿須田翔役だ。家政婦の三田灯(松嶋菜々子)に行き場のない性欲をぶつける演技が印象に残っている。それ以降も学園ドラマに多数出演しているが、『監獄学園』を筆頭に、性欲も含めた少年が抱え込んだ思春期の葛藤を演じさせると見事にハマる。
中川は、昨今のイケメン俳優の中では顔が濃いというか、顔の情報量が異常に多い。『監獄学園』では、その顔芸がコメディとして機能しているが、『南くんの恋人』では南くんというキャラクターの奥行きとなっている。
過去の2作に較べて、今回の『南くんの恋人』が面白いのは、主人公の南くんと小さくなったちよみの関係が、幼なじみで昔は仲が良かったものの、高校生の今は、距離ができているという地点からスタートしていることだ。だから、共同生活をすることになっても、心の距離がなかなか埋まらず、ちよみには南くんが何を考えているのかわからない。だから、ちよみが小さくなったことよりも、南くんの気持ちの方が大きな謎として描かれているのだ。
南くんは身長が小さくなったちよみと一緒に暮らすことになり、心底嫌そうな顔をしていて、ベタベタした甘い感じはなかなか生まれない。だが一方で“フェロモン”というあだ名で呼ばれる同級生の野村さより(中山絵梨奈)から迫られるとドキドキしてうろたえる姿も見せていて、この時は『監獄学園』のキヨシと重なって見える。
ネットで検索すると福士蒼汰と中川が似ているという話題をよく見かけるが、もしも、南くんを福士蒼汰が演じていたならば、もっと透明感のある男性となり、小さくなった女子高生を守る“ナイト”という役割を忠実に演じていたのではないかと思う。しかし、中川には福士にはない思春期の男子高校生の中にあるドロッとした男臭さがあり、それが妙な生々しさにつながっている。
中川が演じるからこそ、周囲からクールなイケメン高校生と見られているが、実は馬鹿でエッチな部分もちゃんとある普通の男子高校生なんだとわかるようになっている。『監獄学園』と同時に見ているためそう感じるのかもしれないが、このにじみ出てしまう「男子高校生っぽさ」は、今後の中川にとっては強みとなっていくのではないかと思う。
内田春菊の原作漫画があまりに過激だったために、原作漫画にあったエロの部分が削がれてファンタジックなラブコメとして歴代のドラマ版『南くんの恋人』は作られてきたが、中川が主演を務めることで、原作漫画にあった男子高校生の性欲やバカっぽさが、やんわりと復活している。可能ならば、いつか原作に忠実な、エロくて救いようのない『南くんの恋人』も中川大志で見てみたいと思う。
(成馬零一)