関ジャニ∞・錦戸亮『サムライせんせい』、堅苦しい侍役でも滲み出る「暴力性」
■暴力の気配を残す俳優・錦戸
それにしても、感心するのは錦戸亮の堂々たる演技だ。本作はコメディだが、武市を演じる錦戸の演技は実にシリアスで、時に鬼気迫るものすら感じさせる。たとえばスーパーやコンビニの中を着物姿の武市が歩くシーンは見ていて滑稽で笑えるが、同時に何ともいえない緊張感が常に存在する。それは、武市が、いつ刀を抜いて殺し合いになってもおかしくない世界を生きてきた侍だからであり、礼節正しい武市の振る舞いの奥底には、人を殺してもおかしくない暴力性が存在する。
礼儀正しく落ち着いているのに、常に暴力の気配が漂っていて、いつ相手を殴ってもおかしくない雰囲気は、錦戸が演じてきた役にきまって存在したものだ。もっともわかりやすいのは、俳優としての錦戸の知名度を一気に高めた『ラスト・フレンズ』(フジテレビ系)だろう。本作はシェアハウスに集う若者たちの青春を描いたドラマで、本作で錦戸は、恋人に暴力を振るう公務員・及川宗佑を演じた。
ともすれば安易な悪役として扱われてもおかしくないキャラクターだったが、見るからに粗暴でマッチョな男ではなく、捨てられた子犬のような哀愁の漂う青年が恋人を手放したくないあまりに暴力を振るって拘束してしまうという及川宗佑の歪んだ愛情は、単純な悪役では終わらない鮮烈な印象を残した。
『ラスト・フレンズ』の印象があまりに強烈すぎたからか、それ以降、錦戸が出演している作品を見ると、どんなに温和な青年を演じていても、いつか抑圧された心が爆発して相手に暴力を振るうのではないかと、ハラハラするようになった。これは見ている側の先入観が入りすぎているのかもしれないが、テレビドラマの配役というものは、どうしても過去作で演じた役柄の文脈を引きずってしまうものだ。そのため、意識的な作り手ほど、その俳優が過去に演じた役柄の文脈をうまくドラマにフィードバックしていく。
たとえば宮藤官九郎が脚本を手掛けた、被害者遺族が犯人への復讐を計画する『流星の絆』(TBS系)や、過去に好きな女性を傷つけてしまった過ちを抱えたまま大人になった男性教師を主人公にした『ごめんね青春!』(同)で錦戸が演じた役はどちらも、普通の青年の中にある暴力性が噴き出す瞬間が描かれていた。
本作は、錦戸が滲ませる内なる暴力性を、刀を腰に差して生きる侍の生き様に落とし込んでいる。侍としての錦戸の演技に凄味があればあるほど、現代人とのギャップがコメディとして引き立つのだ。
(成馬零一)