大盛況の府中刑務所文化祭で見えた、塀の中の厳しい現実と課題
■いよいよ日本最大の刑務所内部へ
模擬店や目玉のグルメ、バンド演奏など、ここまではよくある文化祭のプログラムだが、ひとつだけ唯一無二のイベントがある。それが「プリズンアドベンチャーツアー」。通常は罪を犯した人か、刑務所職員しか入ることができない所内に入ることができる。ベールに包まれた所内を見学することができるとあって、1時間という某テーマパーク並みの待ち時間。人気の度合いが窺える。
「プリズンアドベンチャーツアー」に列を作る人たち。奥に見える塀の向こうが刑務所
ピンクの題字がポップすぎる入場券。なんともいえない緊張で胸が高鳴る
所内は撮影禁止とのことなので、ツアーの内容は文章でざっくりとお伝えしたい。なおツアーで見学できるのは、受刑者が働く工場2カ所と風呂場、体育館。もちろん受刑者に接することはできない。
二重になっている高さ5メートル近くの大きな扉が開くと、殺風景な中に建ち並ぶ工場の建物が目に入ってくる。ちなみに、工場は全部で約40あり、約1,900名が働いているという。まずは、革製品の加工工場へ。こちらは、所内の優良工場として表彰されているという。加工用の機械やミシンが整然と並んでいるところに、日本語以外にも英語、ポルトガル語、中国語、ペルシャ語などの注意書きがあり、こんなところにもグローバル化の波を感じる。トイレの壁の一部がスケルトンになっているのが印象的。
続いて風呂場だが、昭和の銭湯といった雰囲気の更衣室が2つある。なぜ、2つもあるのかというと、効率を上げるためという理由と、違う工場の受刑者同士が顔を合わせないようにする理由からだそう。長方形の風呂釜はステンレスでできており、重々しい雰囲気だ。入浴時間は15分。浴場が見渡せる窓の前には、刑務官が時間を知らせるブザーなどの装置が置かれている。
次に訪れた体育館は、学校にあるようなものと変わりないが、靴箱に受刑者の白い体育館シューズがきちんと収納されているのが生々しい。最後は印刷工場。ノートや月刊誌、帳票類などの印刷物を請け負っているという。壁には売り上げ目標や達成率が棒グラフになったボードが掲げられている。
所内には、日本庭園を思わせる場所や花壇などもあり、開放感がある一方、随所に監視や規律が行き届いている様子が窺えた。
■服役中に内定を得て、出所後の無職状態をなくす
文化祭で知られざる受刑者の暮らしを垣間見ることができたが、その裏にはさまざまな課題を抱えた受刑者が2,060名(11月3日現在)いることは忘れてはいけない事実。
刑務所が存在する最大の目的は、「罪を償わせること」そして「再犯を防ぐための取り組み」である。特に、府中刑務所では何度も犯罪を繰り返す累犯の受刑者も多く、定職に就かないと更生するのが難しい状況だという。
職を得ることは、服役後の再犯を防ぐことにつながるといえるが、世間は元受刑者にそう寛容ではない。罪は償ったとしても、元受刑者が定職を得るまでの道のりが厳しさを伴うことは想像に難くない。
そこで、府中刑務所は昨年、就労支援プロジェクトチームを立ち上げた。就労支援に関係する部署(処遇部門、作業部門、教育部および分類審議室)がタッグを組み、効果的な支援を行っている。支援の内容は、3つに分かれる。具体的な内容は次の通り。
・職業訓練
自動車整備や情報処理技術、建設機械操作などの技術を身につけさせる。
・就労支援指導
職業人として必要なマナーやコミュニケーション能力の教育を行う。
・就労支援
専門資格を持つ就労支援スタッフの個別指導、ハローワーク府中の就労ナビゲーターや東京都就労移行支援事業所職員の個別面接を通して、職業紹介や求人情報を提供する。
この支援が開始されてから、服役中に内定を獲得するケースも出てくるようになったという。
こちらは単独室の模型。服役理由だけではなく、心理鑑定などをもとに複数名室か単独室かを決めるという
全国的に見ると2007年以降、受刑者は毎年減少し、2013年は2万2,755人と報告されている(法務省平成26年犯罪白書より)。犯罪者が一人もいない世の中は理想だが、罪を償ったあとの再犯をいかに防ぐかが、目下矯正施設である刑務所にとって重要な課題となっている。その意味では、服役中に内定を得る手助けをすることは、新しい取り組みといえる。現在、受け入れ先の企業も拡大していることから、今後のプロジェクトの広がりに注目したい。
(末吉陽子)