「春画展」発起人に聞く“わいせつか芸術か”議論――「これは芸術だ」と言う気は一切ない
喜多川歌麿「ねがひの糸口」(部分)
――春画を特集したことで、文藝春秋が自主的に「文春」編集長の3カ月休養処分を発表して話題になりました。
浦上 あれは、かなりニュースになりましたね。私もあの特集に作品を提供していたんですが、「文春」の担当者が来て「これは社内的なことです」と弁明していましたので、ああそうですか、と言いましたが。ただ「文春」は警察からの警告は受けなかったけれど、「週刊ポスト」「週刊現代」「週刊大衆」「週刊アサヒ芸能」は口頭注意を受けた。これはどうしてかというと、一緒にヌード写真を掲載していたからなんですよね。ヌード写真と一緒に春画を掲載したら、春画もわいせつになる、というのは、不思議な発想だと思いますけどね。
――読者に「春画=ポルノ」と印象付けられるということなのでしょうか?
浦上 警察は、春画は国際的にも学術的にも認められたもので、春画を問題視する気は一切ないとコメントしたんです。なるほど、優等生な答えが返ってきたな、と感じました。しかし今回の一件で思ったのは、警察の人たちも大変なんだなあと(笑)。同情はしないけれど、彼らも何かしなければいけない。「警告はしました」「行動はしました」と示さないといけませんから。「春画展」も開催前に、警察から「過激なものは展示しないでほしい」と警告を受けましたよ。
しかし、そもそも春画を掲載した出版物は、実は二十数年も前から無修正で世に出ているんです。ただ、警察としては「展示はダメ」ということで、今回も18歳未満は入場禁止。来場者に身分証明書を見せてもらう場合もあります。出版物より、はるかに展覧会の方が規制できているのに。だから何ら問題ないのに、展覧会がこれほど問題視されているのは、それだけ反響が大きいからでしょうね。
――「文春」の一件がセンセーショナルに報じられたことで、春画への関心が高まったというのもあるのではないでしょうか?
浦上 それはあります。皮肉なもので、話題になると、人は見に来るんです。「文春」の件の後には、おじさんがたくさん来てくれた。一種の社会問題として捉えてくれたんですね。
――「春画」をポルノと捉えられることについて、浦上さんご自身はどのように感じていますか?
浦上 個人的な感想を言わせてもらうと、ポルノは1人で隠れてコソコソ見るもの、春画は「笑い絵」といわれていたように、江戸時代、男女が複数で笑いながら見たもの。単純に言うと、ポルノは暗い、春画は明るい。当時の日本人は性に対してあっけらかんとしていたから、春画を見ることに罪の意識は全然ない。
それに、日本の春画は生活を表しているものでもあります。描かれている女性も、8割は一般の女性ですし、老人を描いているものもある。それから、大英博物館では展示しませんでしたが、今回の展覧会では子どもが出てくる春画も展示しています。お父さんとお母さんのセックスを偶然見てしまった子どもの絵や、子どもを寝かしつけながらセックスしている絵なんですが、セックスが日常の一部として描かれているんです。