『おこげのはなし』作者が語る、「女同士の珍妙な友情」「居場所がない女」の愛おしさ
『おこげのはなし』より
――実感がこもってますね……。逆に、プロのおこげの素質あるなという女性は?
TSUKURU 酒が飲めることと、居場所がない人ですね。帰巣本能で、何があってもここに戻ってきちゃう人。『おこげのはなし』のマリコが、この前帰省したときに、実家で『ろくでなしBLUES』(集英社)を読んでいたらしいんですよ。そしたら親に「この結婚もしないろくでなしが」って言われたって。帰省しても、そういうネタを土産に帰ってくるんです。そもそもプロのおこげはセクシュアリティを全然感じさせないというか、人間対人間で付き合える。
――彼女たちが、いつかゲイバーを巣立つ時も来るのでしょうか?
TSUKURU 友だちとしては巣立ってほしいですね。やっぱり彼氏ができると、まったく来なくなるって言いますよ。
――では、別れたら、また戻ってくる?
TSUKURU あぁ、それもマリコですね(笑)。もう最近では「私、これからオナベ狙うから」って言ってますよ。もう、そういう過渡期に来ているらしいです。ゲイバーに長くいると、擬態するみたい。
――擬態(笑)。先ほど女3人の「珍妙な友情関係」とおっしゃっていましたが、どの辺りが珍妙だと思いました?
TSUKURU マリコが一番年上のエミに「ババア」って言ったり、普通女同士で、そんなこと言い合わないじゃないですか。言葉の外見はまったく気を使っていない感じが、疲れなくていいなと。例えば、先日メイコが大ケガをしてしまったんです。でも病気とかケガとか、失恋とか、困っているときに、なんだかんだみんなで助け合う。そういう姿を見ると、私も身近な友達を大事にしなきゃなって思います。
――友情が徐々にセーフティーネットになっていくと。
TSUKURU ゲイバーも最近若い子が来なくなっちゃって、二丁目にあるコンビニでお酒を買って立ち飲みするのが主流なんですよ。ゲイバーにも高齢化の波が押し寄せてます。
――本書にはノンケ男性の客も登場していますが、彼らは何を求めてゲイバーに来るんですか?
TSUKURU 女性はおこげになる子もいるんですけど、男性はそういうふうにはならないですね。
――擬態しないんですね(笑)。
TSUKURU 男性は自分をそのまんま通して、徐々に居心地が悪くなって消えていく……というパターンが多いかな。
――逆に、どうしてゲイバーに来ようと思ったのかが疑問ですね。
TSUKURU テレビとかで知って「面白そうだな~」だったり。男でも女でも「自分を楽しませてくれよ」という人は、ゲイバーには向かないと思います。
――ゲイバーに行くときの不文律ってありますか?
TSUKURU 腐女子っぽい子が来たがるんですよ、ゲイバーって。BLを読みすぎてる人。でも、店の人やお客さんに、そういう質問をするのはナンセンス。「男性同士の絡みってどうなの?」とか。
――おっさんのセクハラと一緒!
TSUKURU そうそう、その女性版と考えるとわかりやすいかも。品のない笑えない話を強要してくるのはダメですね。それは、どの飲み屋でも一緒でしょうが。
――ゲイバーに通っていたら、会話のセンスもある程度は磨かれるものですか?
TSUKURU 私も最初は「のろま」とか「ナメクジ」とか散々言われてて、「あんたナメクジだから1人で子どももできるし、いいわね!」とか。だんだんメンタルとスピード感が鍛えられました。部活みたいですね。
――ナメクジと言われても通い続けた理由は、どんなところにあると思いますか?
TSUKURU そうですね、自分もおこげと一緒ですね。居場所がなかったのかもしれない。自分はやられキャラで、そのキャラを遺憾なく発揮できるのがゲイバーだった。本当は恋人が通ってたゲイバーがあって、そこに未練がましく通っていただけですけどね……。
――昨日、地元のチェーン居酒屋で1人日本酒を飲んでいたんですけど、やっぱりお酒がいけないのかなと。周りを見渡すと「お酒=カルピスサワー、カシスオレンジ」の女子は、女の人生を着実に歩んでいる気がするんです。
TSUKURU ええ!? 1人でチェーン居酒屋ですか? すごい……。
――ボックス席がね、広すぎるんです。
TSUKURU そんな女いたら、絶対目を逸らしますよね(笑)。でもそうやって大体お酒のせいにしておいたら、なんとなく丸く収まるから、お酒って素晴らしい。
――だから近所にこんなゲイバーがあったら、どんなにいいだろうと。こういう人間関係が築けることは、実はとても幸せなんじゃないかと思えます。
TSUKURU ゲイバーはツラい女、何かにすがりたい女の最後の居場所ですから……この本も、そういう人に読んでもらえたらうれしいですね。