欧米のバイブが日本より洗練されている理由 デザインの違いは歴史にあった
■世界初のバイブは18世紀半ばに誕生
手でのマッサージがもっとも原始的な方法ですが、これはなかなかしんどいものです。クリトリスをちょちょっと触ったからといって、膣内に指を適当に挿入したからといって簡単にイケるわけではないことは、女性のみなさんならご存知のはず。さらに医師側からすると、患者一人ひとりに時間をかけるより、さくさくこなしたほうが金になる。女性が早くイケれば、両者ともハッピー! という事情から、さまざまな工夫がなされました。温泉の水圧でクリ刺激をする、いまでいう〈シャワオナ〉のようなことも試みられていたというのだから、時代が変わっても考えることは同じなんですね。
そして迎えた、18世紀半ばの産業革命。映画『ヒステリア』の主人公でもあるモーティマー・グランビル医師が、次から次へと来院してくる女性へのマッサージでついに腱鞘炎になり(このあたりは映画の脚色で史実ではなさそう)、それでも毎日列をなして通院してくるご婦人方のために、最新の技術を活かして電動女性マッサージ器ができましたとさ……というのが、ヨーロッパにおけるバイブ誕生秘話です。
ヨーロッパのバイブレーターは、実際のところは性欲解消でも、表向きは〈医療目的〉だったのですね。そして、それが量産されるようになり、家庭に持ち込まれるようになると、女性のためのパーソナルなケア家電へと様変わりします。医療の世界から、女性個人へとバトンタッチ。なるほど、女性なりのセンスが商品に反映され、しかも安心安全に使えることが重視されてきたのも納得です。
■国産電動バイブの登場は1970年代初頭
一方の日本は? 現在、東京・目白台の美術館・永青文庫で開催中の『SHUNGA 春画展』でも、複数の作品に〈張形〉が見られます。男根を模した固形物で、当然、電動ではありません。いまでいう〈ディルド〉ですね。べっ甲でつくられた高級品までありました。その訪問販売まであったらしく、女子同士でわいわい選んでいる様子を描いた作品を、私はたいへんほほえましい気持ちで鑑賞しました。女性同士のカップルでその張形を使っている作品もあれば、他人のセックスをのぞき見して、興奮のあまり張形を自分で自分に挿入した女性を描いた作品もあり。同性愛にも玩具を使ったセックスにもマスターベーションにもまったくタブーのない江戸の性、実に大らかです。
なのに、いつしかそれは〈男のためのもの〉になりました。その経緯について私は勉強不足ですが、江戸の春画に描かれた、女性が男性に隷属しない対等な関係でのセックスが失われたころに、〈張形〉もその役割を変えたのではないかと考えられます。それを女性に挿入するのを見て、男性が悦ぶためのもの。男性にとっては、自分の代わりに女性を悦ばせる……つもりでいて、実際には陵辱するためのものへと変容していきました。
国産電動バイブが登場したのは、1970年代初頭のこと。作り手は、もちろん男。いまそれが少しずつ変わりつつあるのはたしかですが、バイブレーターの作り手・売り手・ユーザーに迫ったドキュメント映画『すいっちんーバイブ新世紀ー』には、ゲスいバイブを作るメーカー社長が「やっぱりバイブっていうのは黒くなきゃ!」とゲスく笑うシーンをはじめ、ゴリゴリの〈俺ら目線〉をバイブに盛り込む男たちが続々と登場します。そりゃ、女性のセンスとのあいだがなかなか埋まらないはずです。
ヨーロッパのバイブは女性の性欲の否定から生まれ、日本のバイブは男性のセックスファンタジーを具現化して生まれました。そう考えると複雑な気持ちにならなくもありませんが、この業界も刻々と変わっています。私が収集をはじめた7年前から比べると、ヨーロッパ製はさらに洗練され、日本製も女性目線を意識しはじめています。ひとりで使うにしてもカップルで使うにしても、女性が「これはイヤ! これはアリ!」とイエス・ノーをはっきりさせていけば、もっともっとバイブを女性自身に取り戻せる! と、一介のバイブコレクターは信じています。
(桃子)