自分という他者、ゴミ屋敷の主となった母――私たちは“身近な他人”とどう付き合うべきか
――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン(サイ女)読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します!
日に日に夜が長くなる秋、どろっと濃くて重たい、その分読み応えもずっしりと詰まった4冊を紹介したい。
■『やせる石鹸』(歌川たいじ、KADOKAWA)
まず、物理的に“重たい”デブな女たちが縦横無尽に走り、ぶつかり合い、踊りながら、自分たちのための人生を勝ち取っていく青春小説『やせる石鹸』。
見る人がつい反応してしまうほどの“巨デブ女”たまみ。職場の料亭では優秀な仲居として認められているものの、幼い頃から傷つけられることが多く、親代わりの叔母以外に心を許せる友人はいない。そんな彼女が、一念発起しダイエットして普通の体形になろうとするが、ある知人の死などをきっかけに、やせるのではなく「デブにしかできない方法で魅力的になる」ことを決意する。
本作は「ありのままの私が受け入れられる」というような優しい寓話ではない。太っているからこその魅力で周囲に認めてもらおうとするたまみは、単にやせる以上に険しい道を歩くことになる。それでも少しずつ理解者を増やしていく中で、たまみは、自分が心から欲しかったものは、人から馬鹿にされないやせた体ではなく、誰に馬鹿にされても構わないくらい愛せる居場所や、揺るがない人間関係だったことに気づいていく。
「やせている人=幸せ」と限らないことは十分わかっているのに、それでも「デブじゃなければ今より幸せになれる」と思ってしまうのはなぜだろう。それは、人によっては「ブスじゃなければ」かもしれないし、「貧乏じゃなかったら」かもしれないし、ほかの何かかもしれない。本作は、多くの人が当たり前のように持っている“何か”を、持たないまま生まれてきた人に向けて、ブラックユーモアを浴びせながら前を向かせ、ハッパをかけてくれる。
たまみだけではない、たくさんのデブたちが、自分の居場所を見つけ団結していくさまは、コミカルさと美しさが入り混じり、笑いながら泣いてしまうような結末へ向かっていく。絵面は重いが、爽やかで軽やかな読後感が残るエンターテインメントになっている。
■『困難な成熟』(内田樹、夜間飛行)
『やせる石鹸』は「自分を理解しようとしない、むしろ不当に貶めてくる他者を、こちらから理解すること」の大切さが何度か語られる。相手が何を大切にし何を不快に思うのか、その善し悪しを判断するのではなく、ただ理解することが、結果的に登場人物の世界を明るい方向に広げている。
そのサイクルを、小説ではなく理論として取り上げているのが、哲学家であり、武道家でもある内田樹氏による『困難な成熟』だ。自分と違う外見や価値観の「他者」を認めることが、結果的に自分やその集団を強くする。その理論が、柔らかい語り口で、わかりやすく説明されている。
『困難な成熟』は、編集者からの質問メールをフックに、「成熟とは」「大人になるとは」「『責任を取る』とは」といった一見漠然とした問いに、“捉えどころ”をつくり、身近な問題として読者に自分で考えることを促していく。どのテーマに対しても、答えを短絡的に導かない内田氏のガイドによって、つい最初に考え付いた結論で固まってしまいがちな私たちの視野を少し広げてくれる。