“柴犬愛”が溢れる少女マンガ界のエース『わたしはあなたの犬になる』で犬欲を満たす!
◎鳥飼茜先生の絵の魅力を存分に味わう初短編集
左から『ユー ガッタ ラブソング 鳥飼茜短編集』(講談社)、『ACCA 13句監察課』(スクウェア・エニックス)4
鳥飼茜先生の初めての短編集『ユー ガッタ ラブソング 鳥飼茜短編集』(講談社)が素晴らしいです。鳥飼先生と言えば軽妙な会話の中に鋭い毒を潜ませることができる「言葉の人」という印象が強いかと思いますが、もう1つの魅力が見開きの絵の美しさです。『おはようおかえり』(講談社)でもここぞという場面で描かれた幻想的な見開きの絵が非常に印象的でした。
その魅力は昨今、長編作品よりもこれら短編作品の中でこそ発揮されているように思います。恐怖、驚き、悲しみ、絶望、永遠……言葉なしでも伝わる強い感動が、鳥飼先生の見開きの絵にはあります。「絵の人」としての鳥飼先生の魅力を、この1冊で存分に味わってください。
オノ・ナツメ先生の『ACCA 13区監察課』(スクウェア・エニックス)の4巻が発売中です。この作品、近年のオノ先生の作品の中でも抜群におもしろいと思うのですが、なぜかあまり話題になっていないように感じます。13区に分かれた世界にある唯一の統一組織・ACCA。そこで各地区を視察する「監察課」に所属するジーンが主人公です。やがて見え隠れする陰謀と、組織内の込み入った人間関係。上質なサスペンスでありながら、パンやお菓子がやたらとおいしそうだったりして、多様な魅力を湛えた作品です。未読の方はぜひ4巻まで一気読みを。
ほか、瀬川藤子先生が仏教系大学のキャンパスライフを描く『ハシレジロー』1(双葉社)や、庄司創先生の『白馬のお嫁さん』2(講談社)などを楽しく読みました。
◎10月の注目の新刊
BLからの強力な刺客がまた1人登場します。10月7日に『或るアホウの一生』1(小学館)が発売されるトウテムポール先生です。すでに大人気の『東京心中』シリーズの最新刊『聖誕祭 東京心中 5』(茜新社)も同日発売。併せてぜひ。
1巻の重版ができたばかりの沖田×華先生の『透明なゆりかご』2(講談社)は必読です。子どもを切望するある夫婦を描いた一編は涙なしには読めません。10月13日発売。10月の目玉は9日発売の荒川弘先生『アルスラーン戦記』4(講談社)でしょう。いくえみ綾先生の『あなたのことはそれほど』3(祥伝社)も8日に発売予定です。10月も大忙しです。
小田真琴(おだ・まこと)
女子マンガ研究家。1977年生まれ。男。片思いしていた女子と共通の話題が欲しかったから……という不純な理由で少女マンガを読み始めるものの、いつの間にやらどっぷりはまって、ついには仕事にしてしまった。自宅の1室に本棚14竿を押しこみ、ほぼマンガ専用の書庫にしている。「SPUR」(集英社)にて「マンガの中の私たち」、「婦人画報」(ハースト婦人画報社)にて「小田真琴の現代コミック考」連載中