東京志向・自己実現から離れて――地方都市の“ビッグマミィ”な中年女性の眩しい姿
ドキュメンタリー番組で「ビッグダディ」(テレビ朝日系『痛快!ビッグダディ』)が一時期話題になっていましたが、なんのかんのと子どもに頼られ、内心やれやれと思っているだろうに、家族の精神的経済的支柱となって明るく張り切っている中年女性を見ていると、ビッグマミィは“ビッグダディ”よりビッグなのでは、と思えてきます。
それにしても、地味な地方のマイルドヤンキーな街で、彼女たちはどんな青春を過ごしてきたのかなと、私は貧弱な想像を巡らせます。『スケバン刑事』(フジテレビ系)を真似てスカート丈をぎりぎりまで長くしてみたり、ヤンキーの純愛物語『ホットロード』(集英社)にあこがれたりしたのかな? 「名古屋に出てハウスマヌカンになりたい」と言う友達と「手に職つけたいから美容師」と言う友達と、「早く結婚して子ども産む」と言う友達の間で悩んだり? 成績優秀だと教師からは進学校受験を薦められますが、土地柄、「女は商業科。就職もいいし」と親に言われて従ったケースもありそうです(ちなみに愛知県の高校生女子の大学進学率は東京、神奈川、大阪はもちろん、京都、奈良、兵庫、広島よりも下)。
もしかしたら彼女たちはずっと前から、私のすぐ隣にいたのかもしれません。たまたま名古屋の山の手近辺で育ち、「東京に出て自己実現を果たす」ことだけに目が向いていた昔の私には、その姿が見えていなかった。女子もまた、似た者同士でつるむものですから。
結婚して、これまで名古屋近郊のあちこちに住んできましたが、いまだに「落ち着いた」「馴染んだ」という感覚が持てずにいる私です。一方、その地にどっしり根を張り、老若男女に頼られているおっかさん。彼女たちの体現している幸せのかたちが、今更のように眩しく感じられるのです。
大野左紀子(おおの・さきこ)
1959年生まれ。東京藝術大学美術学部彫刻家卒業。2002年までアーティスト活動を行う。現在は名古屋芸術大学、京都造形芸術大学非常勤講師。著書に『アーティスト症候群』(明治書院)『「女」が邪魔をする』(光文社)など。共著に『ラッセンとは何だったのか?』(フィルムアート社)『高学歴女子の貧困』(光文社新書)など。
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