「実は吸血鬼」「実は狼男」「実はペンギン」何度読んでも設定がわからない『純血+彼氏』
では、架南はどういった立ち位置なのか。交通事故で死にそうになったところ、吸血鬼のアキに血を吸われて不老不死の身になる。吸血鬼に血を吸われた人間は、その吸血鬼の「隷属」となり、血を捧げ続ける存在になるのだとか。アキは血が足りなくなると、架南の首筋をベロベロ噛んで血をもらっている。こうして、固い絆で結ばれた2人は、血を分け合うたびにいちゃいちゃ組んずほぐれつをするようになる。
まとめてみると大したことないのだけれど、この設定を理解するまでに何度も読み返してしまった。とにかく話の要素が多すぎるのだ。
ほかにも、ぼや(爆発?)騒ぎを起こした不良の不知火くんは、実はスティグマ(強欲)の持ち主で、「心の闇を持った人間が月の光と純血の吸血鬼の血の匂いで狂い出す『狂月病(ルナティクス)』」を発症し、そして実は狼男の血を引いていたらしい、とか。
そして、アキが架南に血を分けたことを「ルール違反」だとして刑吏(ディーラー)が登場する。しかしアキを殺すと言って意気揚々と出てきたくせに、処女の架南に触られて、なんでかペンギンに変身してしまい戦意喪失、なんでか仲間になる。なぜ仲間に……。「ペンギンの姿が恥ずかしくてみんなに言いふらされたくないから」というが、あの殺意はそんな理由で消失してしまう程度のものだったのか? その上、架南が処女だとわかり、みんなが驚くのも謎である(いかにも男っ気なさそうな主人公で、警戒心もないキャラなのに。あれがビッチだっていう方が驚きだけど)。
さらに架南の両親もまた謎で、海外赴任中のため、架南と弟を2人暮らしさせている。その弟が1年も引きこもって学校に行っていないのになんの干渉もせず、架南も「この際弟のことはアキに任せて」とか言いだす始末。家族全員、弟に無責任無関心すぎないか?
このように、全体的に話の展開の理由にいまいち説得力が足りなくて、頭に入ってこないのだ。難解な設定に加えて、理解しにくい展開。話を読めば読むほど謎が広がっていくのである。しかも、生徒会長、椿鬼院イヴ、鈴蘭と、1巻に1人のペースで主要人物が増えていく。増えるだけならまだしも、「生徒会長が実は天使だった」などの新設定も追加されていくのだ。
浦沢直樹先生の『MONSTER』(小学館)とか『20世紀少年』(同)も途中で頭がこんがらがったけれど、『純血+彼氏』は、最初から理解できないまま話がひたすら大がかりになっていくのである。最近の若い方たちはこれを読みこなして理解できるのだから、そうとう頭がいいってことなのかしら。
■メイ作判定
名作:迷作=1:9
和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター、少女漫画研究家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、語学テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。街で見かけたおかしな英文から英語を学ぶ「Henglish」主宰。