[サイジョの本棚]

楽しさ、孤独、不自由さ……疑似家族の繊細かつユニークな日々を丁寧に描いた3作品

2015/09/12 19:00

■『おひとり様のふたり暮らし』(ひよさ&うにさ、イースト・プレス)

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 『おひとり様のふたり暮らし』は、10年以上ルームシェアを続けているイラストレーターの2人が共同で描く、ふたり暮らしの実体験が詰まったコミックエッセイ。

 几帳面だけどなにかに熱中するとほかがおろそかになる「ひよさ」と、他人のことにはよく気が付くけど自分のことには大雑把な「うにさ」。タイプの違う40代女性ふたりが織り成す日常生活のエピソードは、決してふたり暮らしのメリットだけが描かれているわけではない。

 笑いにしながらも、「ありえないバランスで食器が収納されていても、自分でそっと直す」「料理はどちらかに任せる(手伝ってもらうとイラッとするから)」「作ってくれた料理は、おいしくなくても黙ってありがたく食う」と、他人と同居する不自由さもあっさりと描かれている本作。それでも彼女たちの暮らしが楽しそうに見えるのは、相手の相いれない行動も「未知との遭遇」と面白がり、お互いが快適に過ごせる中間ポイントを探すことを楽しんでいるからだろう。

 それぞれひとり暮らし経験があり、1人でも家事をするのに不自由はない2人。それでも同居生活を選択する理由を、うにさは「楽しいとか寂しくないとか めんどくさいとか気を遣うとか いろんな要素があるけれど 私にとっては外圧である」「人目があると ダメ人間も 案外それらしく振る舞えたりする」と分析する。“他人がいる不自由さ”は、彼女にとってはメリットでもあるのだ。


 経済的に自立して、1人で何でもできるようになることを「大人」だと思いがちだが、他人と譲り合ったりぶつかり合ったりすることに慣れ、人に上手に頼ることができるようになるのも成熟の1つ。夫婦生活にも通じる、“気の合う他人が家にいることの楽しさと面倒くささ”がたっぷりと体感できる。
(保田夏子)

最終更新:2015/09/12 19:00