“アメリカの思春期”はなぜ魅力的? 学園映画、『glee』、YA小説から解く青春の「呪い」
◎ヤングアダルト小説が映す現在のアメリカ社会
第5章に語られた『ハンガー・ゲーム』『トワイライト』『きっと、星のせいじゃない。』などに代表されるYA(ヤングアダルト)小説についても話が及ぶ。山崎氏が「現在のYAの読者層のかなりの数が子どもを持っていない30~40代の独身者なんですよ」と、その現状を言及すると、長谷川氏も「日本で言うところのアイドルの支持層と一緒ですよね」と分析。このYA小説から卒業できない大人たちこそが、いまのアメリカ社会を反映しているのだという。
また話題は、「この章ではこの話をしないではいられなかった」と山崎氏が太鼓判を押した、「ざっくりわかるモルモン教」というまさかのモルモン教解説ページについて。アメリカにはユダヤ教と同じ程度のわずかなパーセンテージしかいない、実はYA小説の原作者にモルモン教徒がかなり多いのだという。そこに着眼した2人は、「モルモン教の歴史にも踏み込まざるを得なかったんですよね」と口をそろえる。こうした細かなリサーチやツッコミが本全体に厚みを持たせるだけでなく、読者の満足度を底上げする要因として大きいこともわかっているのだろう。
本書はジョン・ヒューズ作品『ブレックファスト・クラブ』に登場する「大人になったら心が死ぬのよ」というセリフそのままに、アメリカという1つの国で捉えてはいるものの、なぜ私たちは青春や思春期という題材にいつまでも魅了され続けるのかを普遍的なものとして見つめている。世の中に飽和する大人になりきれない大人たちにこそ読んでもらいたい1冊だ。
長谷川氏がイベントの最後に「とにかくノイズがたくさん入っているので、読んでいくとまさかのところで引っかかる面白さがあるはず」と念を押したように、2人が言及するトピックは果てしなく幅広い。「エル・ファニングのことを読みたかっただけなのに、気付いたらモルモン教の面白さにハマっているかもしれない」(山崎氏)し、今からアメリカで大学生活を送りたくなるかもしれない。止まらないおしゃべりからあふれ出る2人の血肉化された知識と情報でおなかいっぱいになって欲しい。
(石狩ジュンコ)