女優・吉田羊から考える、年を重ねた女性芸能人が“男前”を売りにしたがるワケ
率直に物を言い合う関係のため、ケンカも起きるそうで、番組の最中も小競り合いが始まる。女性マネジャーが「ぱっと見、私(マネジャー)の方が強そうだけど、本当は羊ちゃんの方が強い」と発言したことに対し、吉田が「絶対使わないでください、コレ、嘘なんで」とカメラにすごみ、それを受けたマネジャーが「この言い方でわかるでしょ、気が強いって」と畳みかけると吉田は「まぁ、気は強いですよ」と発言した。
会話のニュアンスから言うと、「気が強い」は褒め言葉ではないことは明らかだ。「気が強い」は、「言いたいことをはっきり言う」というような意味だと思うが、そういえば、「男前路線」の女優や芸能人には、「気が強い」をアピールしている人はいなかったように思う。吉田の「絶対使わないでださい」発言は、「気が強いと思われたくない」ということであり、美点とみなしていないということだろう。つまり、「はっきり言う(気が強い)」は“男前”の要素には入らない、ということではないだろうか。
仕事をしていれば、背負う責任が大きいほど、はっきり物を言う必要も出てくるだろうし、芸能界という生存競争の激しい世界であれば、気の強さは美点と言えるはずだが、それは“男前”ではないらしい。大酒を飲む、庶民的な店でもよい、たくさん食べる(が、その後ストイックにダイエットして体形を保つ)、でも、自己主張はしない。こういう“男前”な女優は、手間がかからず美しくて従順とほぼイコールであり、それをありがたいと感じるのは、実は男。“男前な女”とは、男にとって都合がいい存在なのである。
ところで、吉田羊は年齢を公表していない。女優の年齢がマイナスイメージになる時代ではないので、特に隠す必要はないと思うのだが、吉田が無名時代、事務所のホームページに掲載していた動画(京都や浅草など、観光地で食べ歩きや舞妓の扮装をしたり、モノマネを披露したり、発情したシカに追いかけられたりする)を見た、『アナザースカイ』の司会・今田耕司が発した言葉は、「若い」だけだった。吉田は「いろんな吉田羊を見てほしい」との思いから、この動画をホームページに掲載していたそうだが、モノマネをはじめとするコミカルな吉田に、今田は興味を引かれなかったらしい。そもそも8年前の映像だから、若いのは当たり前だ。
“男前路線”の女優は飽和状態で、芸能人にとっても競合相手が多く、賢明な選択とはいいがたい。にもかかわらず、“男前路線”が滅びる気配がないのは、若くない女性芸能人が、若い女性芸能人と競合せずに、男ウケするポジションを見つけられない現実があるからなのだろう。
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。
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