『ちゃんぽん食べたか』でかわいらしい魅力を放つ菅田将暉、俳優としての両極の顔
■イロモノ的俳優から脱皮
菅田将暉は『仮面ライダーW』(テレビ朝日系)のフィリップ役で俳優デビューを果たした。いわゆる平成に入ってからの仮面ライダーシリーズは、オダギリジョー、要潤、綾野剛といった俳優を輩出した新人男性俳優の登竜門となっているのだが、近年のライダー出身俳優では、福士蒼汰と並ぶ出世頭である。
その後いくつかのドラマに出演するが、いつも印象に残るのはキリッとした眉毛と、爬虫類的なクールな目つきだ。その目つきのせいか何を考えているのかわからない怪物的な若者を演じることが多く、『35歳の高校生』(日本テレビ系)で演じたクラスを牛耳るリーダー格の少年・土屋正光などは、見ていて薄気味悪く、不快とすら思ったほどだ。『死神くん』(テレビ朝日系)では文字通り“悪魔”の役を演じ、映画『海月姫』では、女装した美少年の役を演じていたが、男でも女でもいけそうな両性具有性が、人の姿をした天使、あるいは悪魔とでもいうような人間離れした怪物役を演じられる下地となっているのだろう。そもそも、フィリップ自体が、いわゆる引きこもり型の天才で、登場した時点から、どこか怪物的な魅力を備えた存在だった。
しかし、そういった怪物性は菅田の持つ天性の資質であって、俳優としては飛び道具的なものにすぎない。だからそういった異形の役ばかりを演じていたら、役者として簡単に飽きられてしまっただろう。菅田が役者として見事だったのは、そういった異形の怪物的な存在としてキャリアをスタートしながら、近年では『ちゃんぽん食べたか』の佐野のような、普通の人間の役も演じられるように着地したことだ。
転機となったのは、連続テレビ小説『ごちそうさん』(NHK)で演じた西門泰介の役だろう。主人公のめ以子(杏)の息子として坊主姿で登場した菅田は、母を心配する戦前の若者役に見事になじんでおり、現代的な得体の知れない若者役が定着していた今までの菅田とは違う正統派の演技を見せてくれた。
『ちゃんぽん食べたか』の佐野役は、泰介役の延長上にあるような役だ。おそらく、今作の菅田を見て「感じのいい若い子だ」「自分の息子にしたい」と親近感を感じている年長者も多いことだろう。
平成の得体の知れない若者と昭和の朴訥とした若者を同時に演じられる菅田は、役者として死角がないと言える。それが器用貧乏に見えてしまう側面もあるが、演技経験を積むことで少しずつ解消されていくだろう。若手では最も末恐ろしい俳優である。
(成馬零一)