『ちゃんぽん食べたか』でかわいらしい魅力を放つ菅田将暉、俳優としての両極の顔
NHK『ちゃんぽん食べたか』公式サイトより
地味な作品だが、NHKの土曜ドラマ枠で放送されている『ちゃんぽん食べたか』が面白い。本作は歌手のさだまさしの自伝的小説をドラマ化したものだ。舞台は昭和40年代初頭。プロのバイオリニストを目指して上京した佐野雅志(菅田将暉)は、バイオリンのレッスンに励む傍ら、菊田保夫(泉澤祐希)、樫山満(間宮祥太朗)らと高校生活を送っていた。時にバンドを組んでコンテストに参加したり、得意の落語で周囲の人々を笑わせたりと楽しい日々を過ごす佐野。しかし、自分の才能に限界を感じ、やがてバイオリンをやめてしまう……。
高校時代の楽しさと、何者でもない自分の将来に対する不安がおおらかなムードで描かれた、懐かしいタッチの青春ドラマだ。本作が面白いのは、主人公の佐野が、器用で育ちのいい少年だということ。家は決して豊かではないが、幼少期よりバイオリンを習わせてもらい、音楽家になるための学費も払ってもらっている。当時としては子どもに理解のある家族だったのではないかと思う。青春モノは大抵、落ちこぼれや劣等生、そうでなければ不良少年を主役にして思春期の不安やいらだちを描く。しかし、本作は佐野がおおらかな性格で多才のためか、物語は妙に淡々としている。これは脚本を担当する尾崎将也のカラーでもあるのだろう。
家事や結婚に対する男女の意識の差をコメディタッチで描いた『アットホーム・ダッド』や『結婚できない男』(ともにフジテレビ系)などで知られている尾崎は、起承転結のしっかりとした論理的なドラマを作る脚本家だ。そのためか、いつも少し引いた目線で登場人物を描いている。だから、登場人物が感情を激しくぶつけ合うということも少なく、そういった場面があったとしても、大抵はコメディタッチでかわされてしまう。
そのため、どこか人を食ったようなすっとぼけた落語的な味わいが尾崎のドラマにはあるのだが、本作のおっとりとした空気は、原作の持ち味と尾崎の作風がうまくマッチした結果、生まれたものだろう。
それにしても、初めにさだまさしの役を菅田将暉が演じると聞いた時は、似てるのは名前だけじゃないかと、ミスマッチに感じたものだ。しかし、始まってみると、当時のさだまさしと菅田が似ているかどうかは知らないが、当時の高校生が持っていただろう朴訥な雰囲気がにじみ出ていて、実にかわいらしい魅力を放っている。