『Dr.倫太郎』、「攻め」の演技をやめて「受け」に徹する堺雅人に期待すること
◎攻めなくなった堺雅人の芝居
一方、役者たちの過剰な演技が画面を覆う中で、自制的な演技を要求されているのが主演の堺雅人だ。堺は1992年に、早稲田大学演劇研究会を母体とした劇団「東京オレンジ」に旗揚げから参加。大学を中退して以降は、田辺エージェンシーに所属し、映画やドラマで活躍する。NHK朝の連続テレビ小説『オードリー』や大河ドラマ『新撰組!』などさまざまな作品に出演し、名バイプレイヤーとして高い評価を獲得していった。
『ジョーカー 許されざる捜査官』(フジテレビ系)以降は、テレビドラマの主演作も増えていき、頭は切れるが性格が最悪の弁護士・古美門研介を演じた『リーガルハイ』(同)と、復讐に燃える銀行員・半沢直樹を演じた『半沢直樹』(TBS系)に出演したことで、人気・実力の両面において高い評価を獲得し、役者としての地位を不動のものとしたと言える。来年には、『新撰組!』と同じ三谷幸喜・脚本の大河ドラマ『真田丸』の主演がすでに決定しているだけに、今年の出演作にも注目が集まっていたが、そこで選んだ作品が中園ミホ脚本の『Dr.倫太郎』だったのには驚いた。
中園の作風は一言でいうとテレビドラマらしい痛快娯楽作だ。そのため主演俳優ほど『ドクターX』の米倉涼子のような、どっしりと構えた「受け」の演技が要求される。堺はどちらかというと饒舌にしゃべりまくる芝居を得意とする「攻め」の技巧派で、主役の『半沢直樹』ですら、過剰な振る舞いによって周囲を翻弄するモンスター的存在だった。対して、『Dr.倫太郎』では、いつも能面のような笑みを浮かべ、優しく患者と向き合う精神科医を演じることで、古美門や半沢の「攻め」の演技と違う、相手の芝居を引き立たせる「受け」の芝居に徹している。
よく、良い役者と芝居をすると、普段の何倍も演技が上手に見えると言われるが、本作で精神病患者を演じる役者が自由に演じられるのは、堺がしっかり受け止めているからだ。つまり演技の面でも、患者の悩みを優しく受け止める倫太郎という構図が成立しているのだ。
とはいえ、堺のブチ切れた演技もファンとしては見たいもの。次の最終話は、倫太郎が医者を辞めることで、解離性同一性障害を抱えた夢乃と1人の男として向き合う展開となり、今まで冷静さを保っていた倫太郎が、狂気の世界にひきずりこまれていく展開になりそうだ。その時こそ、堺らしい「攻め」の芝居が爆発するのではないかと楽しみにしている。
(成馬零一)