“吉原の女帝”の半生に見る、清濁どちらも受け入れてきた人間の強み
――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン(サイ女)読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します!
■『吉原まんだら』(清泉亮、徳間書店)
今も夜の街として栄える東京・吉原には、“女帝”と呼ばれ、街を歩けば呼び込みの男たちからびしっと挨拶される94歳の女性がいる――。今までメディアに一切出たことのない、知られざる「吉原の女帝」が自身の半生を語ったノンフィクションが『吉原まんだら』だ。
夫に付き従った結果、なし崩し的にキャバレー、ソープランド、ホストクラブなどあらゆる風俗業の経営者として、吉原で半生を過ごすことになった女性“おきち”。吉原で生きるさまざまな女性たちを、単なる商売道具ではなく人間として懐深く受け入れ、経営者としての才覚を発揮してきた彼女は、いつしか“吉原の女帝”と呼ばれるようになる。
彼女や、本書のもう1人の主役といえる、日本最大級の風俗店グループ経営者“マー坊”が回想する「吉原」の歴史は、戦中・戦後の混乱に翻弄された風俗業と女性たちの物語でありながら、政治や外交と密接につながる日本の知られざる裏面史を知ることもできる。
風俗業という業種柄、経営者としてどんなにおきちが優れていても、世間からの批判は避けることができない。しかし、引退した後も勤めていた女性たちから「ママ」と慕われ続ける彼女の回想からは、生半可な中傷では揺るがない仕事への哲学も感じられる。必ずしもその仕事の全てを肯定はできなくても、清濁併せのんできた人が持つ、独特の魅力に引き込まれてしまう1冊だ。
■『ヘンな論文』(サンキュータツオ、KADOKAWA)
なかなか理解されなくても、広く知られていなくても、ひっそりと自分の道を信じて歩み続ける人たちはたくさんいる。趣はだいぶ変わるが、『吉原まんだら』に続いてそう思わせてくれるのが、変わった学術論文を集めた『ヘンな論文』だ。
「女子校が共学校に変わった時の、女子の行動の変化」「公園の斜面に座るカップルの研究」などなど、一見役に立つのかわからない、しかし大真面目に人類の知見を広げている論文をピックアップし、解説した1冊。各研究も十分面白いが、研究者として大学講師も務めるお笑い芸人・サンキュータツオが論文の行間を読み込み、想像力を駆使してさらに妄想を膨らませていく過程も秀逸だ。
「20代の男女が恋人同士のふりをして、公園に座るカップルの距離感について調査した」というくだりから、「これがアニメとかだったら、(調査者が)完全にくっつくパターンじゃないか」と憂慮したり(後々実際にカップルが生まれていたことが判明する)、湯たんぽについての研究論文が、優れた歴史ミステリーとしても楽しめることを発見して興奮したり――。どの研究も、「敬意を払いつつ、笑ってツッコむ」という著者の視点が加わることで、さらに面白さが際立つ。
時に、家族どころか大学からも理解を得られない状態で、それでも誠実に研究を続ける人々がいる。それを「もはや人間の『業』」と呼びつつ、また「純度の高い『ボケ』」と表現して著者自身が“適切なツッコミ”という理解者になることで、彼らの生き方に光を当てる本書。それは、理解できない情熱を抱えてしまった人のおかしみを浮かび上がらせると同時に、世界には、まだまだ面白い謎がたくさんあることを気づかせてくれる。