「まつ毛=女の充実度」だった!? 上西小百合、伝説の“びっちゃびちゃ”アイメイクの源流
美しくなりたい――世の女たちの狂おしい思いを、「44歳、ゲイ、汚部屋に一人暮らし」の漫画家・大久保ニューが担ぎ込む! 古今東西あらゆる美容法に食らいつき、美を追い求める女の情念まで引きずり出す――
「上西小百合が気になってしかたないんです!」と、担当編集のJ子から電話があった。小百合って政治家の? この春に男との旅行で会議をサボって大阪維新の会を除名になった人だよね? もちろん、J子が気になっているのは、政治家うんぬんのことではなく、彼女の外見。というか、小百合のまつ毛について。かのデヴィ夫人から「下まつ毛びっちゃびちゃ」とdisられたくらい、あのまつ毛はインパクトがある。「とっても31歳には見えないんですけど、どうしてあんなアイメイクをしているんでしょう!?」とJ子は問いかけるが、本当、どうしてなのだろう?
31歳……ということは多分「深キョン直撃世代」ではないだろうか。マスカラを重ね塗りしまくった深田恭子のボリュームまつ毛は、日本の「まつ毛観」を一変させた。90年代後半……つまりはコギャルの全盛期。盛りまくったメイクがはやった中、一般女子にも盛り盛りのまつ毛文化を持ち込んだのは深キョンだった……と、当時の私は認識していた。しかしコギャルだった女友達に聞いてみたところ、ギャルも最初はアイラインに頼っていたのだけれど、テレビドラマ『神様、もう少しだけ』(フジテレビ系)で、ギャルの役だった深キョンのまつ毛がきっかけで、真似し始めたらしい。ギャルより深キョンが先だったのだ。もしも「日本のまつ毛史」という教科があるなら、絶対に外せない最重要人物だね☆
そんなワケで「深キョン信者だった青春時代から抜けられないんじゃない?」と、偉そうにJ子に解説をしてみた。調子に乗って、ほかの友達にも小百合のまつ毛論を話してみたところ、コスメの生き字引のような友達から「あれは10年前にはやった『関西メイク』の名残だよ」と言われた。当時、はやっていた雑誌「JJ bis」(光文社)のキャッチフレーズだった「可愛ゴー(可愛くてゴージャス)」から抜けられないのが、小百合のまつ毛らしい。「まつ毛史」も奥深いものである。
「今時、小百合みたいな重いまつ毛はないよ」とは生き字引ちゃんの言葉だが、確かに昔よく見たゴワゴワな「ひじきまつ毛」って見かけなくなったなあ。「マスカラ4本使い」とか「10度塗り」なんて普通だったあの頃、呑み屋でキレイにメイクをしている女子店員に「まつ毛、キレイだね☆」と言うと、みんな本当にうれしそうにしてくれるんで、よく褒めていた。ある時、帰りがけに店長が挨拶に出てきて「うちの従業員を褒めてくださり、ありがとうございます」とお礼を言われたこともあった。厨房でも感動が治まらなかったらしい。「まつ毛のボリューム」は「女の充実度」に比例した時代だったのだ。あの頃に比べたら、今は本当にスッキリしたまつ毛になったものだ。つけまつ毛ですら、あの頃のような「ぶっといまつ毛」は見当たらない。太眉が復権したように、変わらないものなどないのだなあ……コスメ無常。