カルチャー
映画『がむしゃら』トークイベントレポート

自殺未遂の過去を持つ壮絶女子プロレスラー、リングで魅せる「死ぬから生きる」という生き方

2015/05/13 18:45
(C)MAXAM Inc.

 「悪の女優魂」というキャッチフレーズで人気の女子プロレスラー・安川惡斗(あくと)氏。悪役(ヒール)レスラーとして活躍し、デビューからわずか2年で女子プロレスラーのスターダムの象徴である「ワンダー・オブ・スターダム王座」を獲得している。女子プロレスラーならば誰もがあこがれる真っ白いベルト――デビュー間もなくそれを手にした安川氏だが、彼女の歩んできた道は決して平坦ではなかった。

 いじめや不登校などさまざまな壁にぶつかり続けた中学時代から、女子プロレスラーとして活躍する現在までの安川氏の人生を描いたドキュメンタリー映画『がむしゃら』が、公開中だ。5月4日、東京・渋谷シアター・イメージフォーラムにて、安川氏、髙原秀和監督、ゲストの小説家・うかみ綾乃氏が同作について語る、アフタートークイベントが行われた。

 髙原監督いわく、うかみ氏の小説と安川氏の生き方には共通している部分があるという。レイプされた美少女の葛藤と復讐が描かれた著書『ドミソラ』(幻冬舎)など、うかみ氏の作品には「残酷だけれど希望がある。そこはこの映画との共通項ですね。『死ぬから生きるんだ』という感じがします」と語る。そしてうかみ氏も「惡斗さんの人生を画面で見ながら、自分の人生を振り返る映画」と、同作について熱弁する。実際に、安川氏の歩んできた人生は、観客自身の人生にどこかしら引っかかるのだ。

 1986年、青森県三沢市に生まれた安川氏。時代劇が大好きで「サムライになりたい」という夢を持ちながら剣道に励んでいたという。しかし、剣道を辞めてから、安川氏の人生に歪みが生じ始めてしまう。学校で浮いた存在であった安川氏は、中学1年の頃からいじめに遭い、中学2年の時には、近所の公園で集団レイプに遭う。その後いじめはエスカレートし、ついには登校拒否に。父親は単身赴任、母親はアルツハイマーの祖父を抱え奔走する中、相談できる相手を見つけられずに、ついには自殺未遂を起こしてしまう。

 奈良県出身のうかみ氏は、閉鎖的な環境である田舎を「自分が自分ではいられない場所」と語っていたが、高校3年の時、父の転勤を機に青森から上京した安川氏は水を得た魚のように、自分自身と向き合い、急速に成長してゆく。

転機となったのは、転校先で演劇部に所属したことだ。演じる喜びを知り、高校卒業後に日本映画学校に入学。映画やドラマ、舞台などの女優業を経験し、舞台『レスラーガールズ』で愛川ゆず季氏と共演。これがきっかけとなり、プロレスラーを目指すことになった。

■安川惡斗の姿に「笑いが止まらない」

 アイドル系プロレスラーがほとんどを占める現在の女子プロ界。「悪役がいないとつまらない」という理由でヒール役を志願し、11年に“安川惡斗”が誕生。リングに立つ時の安川氏は、普段ののんびりとした口調と柔らかな表情からは想像もつかない鬼の形相で泣き、叫び、怒る。そんな“安川惡斗”の姿は、うかみ氏の目にこう映ったという。

「この映画を見て、『涙が止まらない』という感想が多いんですけど、私、笑いが止まらないんです。惡斗さんがこんなに輝いていて、うれしくて。多分彼女はリングの上で死んでも後悔しないんじゃないかな、と思うほど」

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