「女はかわいい方が得」という刷り込みの、“かわいい”の曖昧さを探る
■『透明カメレオン』(道尾秀介、角川書店)
■『幸せ嫌い』(平安寿子、集英社)美形ではない外見にコンプレックスを持ち、人間関係や恋愛を始めるとき、必要以上に後ろの位置に立ってからスタートしてしまう。そんな人々に焦点を当て、深く爽やかな読後感を残す小説が『透明カメレオン』と『幸せ嫌い』だ。
『透明カメレオン』は、人を惹きつけずにはいられない特別な美声と、小太りでイケてない外見を持つ男性が主人公。ラジオ番組の人気パーソナリティーでありながら、美声と外見のギャップを笑われる恐怖から、会話が極端に苦手で恋愛経験はない。物語は、主人公がその容姿コンプレックスから、恋をした女性に思わず嘘をつくことで、女性が計画する“殺人プラン”に巻き込まれることになる。最後まで展開が予測できないサスペンス活劇でありながら、弱さや不器用さを抱えたまま不格好に前に進む人々を肯定する一冊だ。
一方、薄毛で肥満で、アニメ以外での会話が続けられない奥手な男性や、隙のないコンサバファッションで固めた女性が、少しだけ外見を変えることで人生を変えていくのは『幸せ嫌い』。ユーモアたっぷりに「結婚(したいのに)できない人々」を活写する婚活コメディ小説だ。漫画のようにテンポよく、「女子力とは、ターゲットの気に入るように振る舞う演技力」など、キレのいい警句が頻出する本作。結婚相談所を舞台に、男女それぞれに厳しい本音をぶつける痛快さもありつつ、人の欠点や情けないところが、些細なことでチャームポイントに見えてくる人間関係の面白さが、鮮やかに描きだされている。
■『なまけものダイエット 楽して痩せたい甘口篇』
■『なまけものダイエット とにかく痩せたい辛口篇』(伊藤理佐、文藝春秋)人気漫画家・伊藤理佐による『なまけものダイエット』は、さまざまなダイエット法を頑張ったり頑張らなかったりする日々をつづったコミックエッセイ。若い頃を振り返る『甘口篇』と、40代に入り、ダイエットと同時に加齢問題にぶち当たる『辛口篇』の2冊で構成される。
単純に「痩せる=綺麗に見える」だった『甘口篇』と比べて、『辛口篇』では体重を落としすぎるとかえって老けて見えたり、そもそもダイエットよりシミやシワなど容姿の衰えや老眼の方が気になってきたりと、まず体の変化と向き合わざるを得ない現実が、笑いを交えながら描かれる。
そんな『辛口篇』は、ダイエットを絡めながらも、加齢との付き合い方を模索する“途中報告”のようでもある。後半で「太っていてもシワがあっても、なんかいい感じの人になりたい」とつづる著者は、「おばさん」か「美魔女」の二択に引っ張られがちな読者に、その間にある無数のイメージを広げてくれる。日に日に衰えていく容姿をどう捉えるべきか戸惑い、焦る女性にとって、本書は肩の力を抜いてくれる一冊になるかもしれない。
(保田夏子)
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