小籔千豊は、なぜ美魔女に怒るのか? 「白髪染めを我慢する母」賛美の単純すぎる本心
オペラを見に行くのに、いつもの古着ではまずい。だからといって、「お金をかける」のは小籔的にはNGなのである。シャネルのバッグを買うなんてもってのほか、けれど、捨てる寸前、「ボロい」のを大事に使うのなら、良しとする。つまり、小籔は「高いものを買う女」「金を使う女」が嫌いなのだ。「白髪染めを我慢するお母さん」を褒めて、美魔女を貶すのは、何のことはない、美魔女が「金を使う女」だからである。余談だが、同番組では、かつて芸人の私服チェック企画をやったことがあるが、小籔は服装にこだわり、パリブランドを好んで着ていると言っていた。自分が金を使うのは良いようだ。
「金を使う女」だけでなく、小籔は、恋と美ばかり賛美する雑誌を嫌う。将来、美を磨いて、金持ちのおっさんと付き合うことが正義となったらどうしようと憂うが、女性と雑誌の距離を理解していないと私は思う。
美を手に入れて、実際に金持ちのおっさんと付き合う人は、雑誌を読まない。なぜなら、そのようなクレバーな人は、雑誌に教わらずとも、自分の頭で考えてハウツーを生み出せるからである。経済的に余裕のない人や、家族にトラブルなどを抱えている人も、雑誌は読まない。それどころではないからである。
それなら、誰が雑誌を読むかと言えば、経済的には恵まれているけれど、精神的には退屈だったり、満たされないものがある「少し不幸」な人が読むのである。『TVタックル』で「美魔女が幸せな人だと思わないでほしい」と元ホームレスの美魔女が発言したが、何かが足りない、完全に幸福ではないと思う気持ちが、雑誌に手を伸ばさせるのだ。
『TVタックル』において、阿川佐和子が、美魔女に「同窓会で勝ったと思う?」と質問し、美魔女は「心の中で」と答えていたが、これもまた「少し不幸」な人の発想である。同窓会と言えば、「かつては乙女、今では太め」と同窓会にやってきた女性の変わりぶりを揶揄するCMがあるが、「満たされている」とは、この「今では太め」の方である。同窓会に来る時点で物心共にそこそこ満たされているはずであり、また若く見える方が良い、細い方が勝ちという世間にはびこる価値観を超越して、自分を肯定できているからだ。勝負し続ける美魔女は敗北を味わう可能性もあるが、勝負しない元乙女は、他人に傷つけられることはない。
小籔の真意は別として、白髪染めを我慢する母礼賛発言は、昭和めいた道徳が好きなある層にはウケが良いだろう。吉本興業の先輩、西川きよしの後を継いで、政治家になる日が近いと私はにらんでいる。
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。
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