『山田孝之の東京都北区赤羽』、ドキュメンタリードラマでも晴れない山田の“不気味さ”
ドラマでは、原作漫画をなぞるように山田と赤羽の住人の交流が描かれる。中でも最も強い存在感を見せるのは、ジョージさんと呼ばれるサングラスのおじさんだ。『ブラタモリ』(NHK)的な聖地巡礼番組として気楽に見ていると、突然ジョージさんが山田に説教を始めるという展開が何度かある。最初は、突然怒りだす謎のおじさんだと思っていたが、だんだんジョージさんの説教自体が、赤羽の住人を見世物小屋的に楽しもうとする本作と、また過剰な幻想を赤羽に抱いている山田に対するまっとうな反論だとわかってくる。居心地の悪い場面だが、ジョージさんの説教があるからこそ、山田は次のステップへと進めるようになっていく。
やがて山田は、居酒屋「ちから」のマスターが昔書いた漫画『ザ・サイコロマン』を原作に、短編映像を作り上げる。その出来はとても稚拙で、どこか心を病んだ人の治療で行われる箱庭療法にも見える。俳優の綾野剛は『ザ・サイコロマン』を見て「俺はお前のことをもっと好きになったよ」と言うが、おそらく同じ俳優として山田の苦悩がわかるのだろう。
このドラマを見て、一見華やかなイケメン俳優たちには「自分は与えられた役を演じることしかできない」という、作品を作る作家や映画監督に対するコンプレックスがあるのかもしれないと感じた。最終的に山田は、役者としての自分に立ちかえり、赤羽の人々と一緒に桃太郎の舞台劇を作り上げ、赤羽を去る。
このドラマ自体が、山田のリハビリだったと考えれば必然の流れだが、綺麗にまとめすぎてドキュメンタリーとしての面白さは後退してしまったように感じた。これは、昨年の夏にすでに収録済みであることの長所であり短所だ。もしも、ネットでリアルタイム配信されていたら、また違った作品となっていたかもしれない。
それにしても、山田は「自分の軸」を作ることができたのだろうか。ドラマとしては綺麗にまとまったが、「得体の知れなさ」はちっとも解消されてないように見えるのが、俳優・山田孝之の業の深さかもしれない。
(成馬零一)