寡黙な佇まいが「男の無神経な鈍感さ」を表した、『問題のあるレストラン』の東出昌大
■東出が朝ドラから引き継いだ「文脈」
『ごちそうさん』でヒロインの夫・西門悠太郎を演じた東出は、長身で剣道を習っていたこともあってか、高倉健のように、黙って立っているだけで絵になる俳優だ。それだけに、戦前を舞台に寡黙な職人的存在を演じるとよく似合う。しかし、その古き良き寡黙さは、本作では、男の中にある無神経な鈍感さに転換されている。
門司は料理に賭けるプロ意識は強いが、会社で起きているセクハラ等の問題に対しては徹底して無関心だ。しかし、たま子と関わることで少しずつ変化していく。門司の心情は言葉ではあまり説明されないが、たま子と話している時や料理をしている時の微妙な表情の変化によって表現されていく。
ある日、門司は、小学校の時にすぐに人を殴る“あっくん”という友達がいたことを思い出す。あっくんは親に虐待されていた。もしかしたら、雨木社長もあっくんと同じように誰かに虐待を受けてきたのではないか、とたま子に話す。その後、ケータリングの仕事で「ライクダイニングサービス」を訪れた門司は、たま子と雨木社長が対峙する場面に居合わせることになる。
場所は会議室。五月が全裸で謝罪させられた場所だ。たま子は静かな怒りを込めて雨木社長を諭し、ついに謝罪の言葉を勝ち取る。2人のやりとりを見た門司は、初めて五月が体験した痛みを心から理解して涙を流す。門司の中に共感の心が生まれたのだ。
しかしその後、門司は、雨木社長の謝罪が嘘だったことを知り愕然とする。そして、怒りのあまり雨木のことを殴ってしまう。ここで思い出すのは、『あまちゃん』で杉本哲太が演じた大吉の若い頃を演じたのが、東出だったということだ。門司は、あっくんと雨木社長を重ねていたが、キャスティングから言うと、門司にとって雨木社長は、もう1人の自分だと言える。
だからこそ、門司だけが雨木社長の心情を理解できたかもしれなかった。しかし、その可能性は雨木社長本人によって踏みにじられてしまう。この場面が哀しいのは、門司が自分自身を殴っているように見えるからだろう。役者の文脈を用いて「断絶」を描いた名シーンである。
(成馬零一)