「オーガニック野菜」「感性を磨く」まではいかなくても……ロハスな中年女性の欲求とは
少女から女性へ、そしておばさんへ――全ての女はおばさんになる。しかし、“おばさん”は女性からも社会からも揶揄的な視線を向けられる存在でもある。地方都市に普通に生きる“おばさん”の多様な姿を大野左紀子が探っていく。第3回は「ロハスな中年女性」。
ロハス(lifestyles of health and sustainability)という言葉から、あなたはどんな人を思い浮かべますか? 環境問題に取り組んでいる企業の品物を買い、オーガニック野菜を食卓に欠かさず、自然系の洗剤を使い、手作りのドクダミ化粧水を愛用していて、身につけるものは天然素材だけ、ヨガを習い、ホメオパシーと食育に関心があり、地球温暖化を憂い、自己啓発セミナーに通っている。好きな言葉は「感性を磨く」「本物を見つける」「見えない世界」「本当の自分と出会う」「人生に必要なこと」「世界を変える」……。
どこか「高い意識に目覚めた自分が大好き」な感じが、正直言って私はちょっと苦手です。が、ここまで典型的に嵌っていなくても、小金のある団塊世代、都市の30~40代女性やファミリー層を中心に受けが良いといわれるロハス的ライフスタイル。では、その狭間の世代のおばさんにおいては、どうなのでしょうか。
もしロハスが質素な暮らしと関係あるなら、中年後期の女性の多くにとって、それはなじみ深いものです。戦争を体験している親たちが、とても物を大切にする世代だったからです。「ご飯粒を残すな」「水道の水を出しっ放しにするな」「鉛筆は短くなっても捨てずにホルダーを付けて使え」と、いちいち口うるさかったものです。何でもボロくなるまで使って、やっと新品を買ってもらえます。1960年代から70年代にかけて、お金持ちの家の子以外は、大体そんな感じでした。
その一方では高度経済成長期の大量生産・消費の時代が幕を開けていて、欲しい物が次から次へと出てきました。「もったいない」「無駄使いするな」と子どもの頃に叩き込まれた最後の世代は、「じゃんじゃん買ってじゃんじゃん捨てろ」というメッセージも社会から受取っていたのです。大人になるにつれて世の中はどんどん豊かになり、おばさんも一度は「じゃんじゃん買う」ブームに乗った体験があります。次々と新製品を試すことの快楽は病み付きになるし、便利で快適な暮らしから降りるのは簡単なことではありません。バブルの頃のブランドブームを支えたこの世代、海外ハイブランドには手が出なくてもオンワード樫山系の服を着て、靴もバッグも高級志向でした。
しかし頭の片隅、というか体のどこかに、子どもの頃、親に教えられた生活態度が染み付いてもいます。こんな贅沢に物を消費していいわけがないよね。アレもコレもソレもどうしても必要なものじゃないよね。新しい製品を物色している時、そういう声がどこからともなくしてきて、一抹の罪悪感を覚える。それでも買ってしまう。一時は満たされるがまた飢餓感が襲ってくる。そんな体験を数限りなくして中年になりました。