日本初の女芸人パブ「中野コメディエンヌ」で聞く、「女芸人は女を捨てるべきなのか」問題

「看板にはなぜか『美人お笑い芸人の卵が接客致します』って書いてある」と笑うさちまる。さん

――そうなんですね！　「女芸人は恋をすると面白くない」「女は捨てろ」とよく言われがちだと思いますが、さちまる。さんの場合はどうでしょうか。

さちまる。　私は好きな人ができると、ネタを考えるより料理に励んじゃったりするから、ネタ作りがおろそかにはなります。浮かれてた時期に「彼のこと考えすぎて夜も寝れなくて食べちゃう♪」みたいなブリッジ（ネタの合間にはさむ言葉や動作）を作ったこともありましたね（笑）。でも昔、芸人を始めたての頃は、「芸人はこうだ！」と思って坊主にしようとしたことがあります。それを付き合ってた彼氏に相談したら、別れることになっちゃって……その当時は、女芸人として「女を捨てた方が面白いんじゃないか」と思い、「坊主にする」ことに意味を感じてたのかな。

　昔はお笑い自体が男社会だったから、そもそも女は面白くないと思われていました。面白い男はカッコいいけど、面白い女は別にカッコよくないという価値観もあったから、「女を捨てるべき」と思っていたのかもしれません。でも今は、女にしかできない笑いがどんどん生まれているので、「女を捨てる云々」はなくなってきているのかなと感じますね。赤プルちゃん（赤いプルトニウム。夫である芸人・松丘慎吾と「赤プルと旦那」というユニットも組んでいる）なんかは、「ウチの旦那は私より稼ぎが悪くってー」とかネタにしていますもんね。

――芸人と女は両立できるんですね。

さちまる。　私の場合は、彼氏がいることでやる気、活力になります。今は彼氏絶賛募集中なんで、むしろ罰ゲームで誰かとチューとかしちゃって彼氏に怒られたいですね。メガネ男子希望です。面白いとも言われたいけど可愛いって言われたいし、むしろガリガリって言われたい！

　でもごく一部に、酔っぱらって体触ってこようとしたり、ハグしようと向かってくるお客さんもいて、迷惑しています。うちのお店は、隣の席に座らずテーブルを隔てて接客するんですが、そういうお客さんには、のど輪をキメたり、「そういう店じゃないですよ」とちゃんと止めますけどね。キャバクラでもどこでも触る人って元を取ろうとしてるんですよ。「触る人はケチ」です！　モノを落としたふりしてスカートの中を覗こうとする人もいますよ。でも太っててだんだん股開いちゃう芸人が、まずだらしないっていう場合もあるんですけど（笑）。

――「ブス！」とか「デブ！」とかいじってくるお客さんもいますか。

さちまる。　まあ、いますね。あまりにも暴言がひどい場合には注意しますが、基本的には来たボールは言葉で打ち返しています。「ブス！」と言われたら「じゃあメガネ外してブスが見えない努力してもらっていいですか？」とか、後ろを振り返って、「誰か言われてるよー」みたいな。なんでも笑いにしちゃう。例えば、「おいブス」と言われても、こっちがショックを受けたら、その言葉が悪口になっちゃうけど、ツッコめば笑いになりますよね。相手を悪者にするかしないかの主導権は、こっちが握っているわけです。

　会話の盛り上げや言葉のはね返しに関しては、そんじょそこらの姉ちゃんには勝てるかなと思っています。むしろ新宿2丁目に行くときは戦闘態勢になりますね。オカマに「この女面白い」「なんでも返してきやがって」と思われたいです。

――そういった会話における処世術を、女目線で観察するのも面白いかもしれません。最後に読者に向けて、中野コメディエンヌのおすすめポイントを教えてください。

さちまる。　やっぱり世に出る前のふわふわした芸人のネタが見られるところ、あとは、「ピッチャーからあげ」というメニューがあるんですが、それを女芸人たちが物凄いスピードで食らいつくイリュージョンも見られます！　ぜひ一度来てみてくださいね。

　どんな悩みでも聞いてくれそうな姉御肌のさちまる。さんには、葛藤を乗り越えた女芸人の懐の深さと、共存する乙女な顔も垣間見えた。そんな一面的ではない女の面白さを感じられる、清く正しく面白い飲み屋が「中野コメディエンヌ」なのではないだろうか。日々の生活に疲れたら、笑いと面白い女を求めて、「中野コメディエンヌ」を訪れるのもいいかもしれない。

さちまる。
1975年生まれ、北海道出身。クリエ（Qurie）所属。『とんねるずのみなさんのおかげでした』（フジテレビ系）の「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」などに出演。特技は料理と昭和歌謡を歌うこと。

中野コメディエンヌ
東京都中野区中央4‐26‐10　東豊マンションB1
03‐3380‐0282
営業時間（火～土）午後8時～ラスト（日）午後9時～ ラスト（月）定休日
公式サイト

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