根拠ない自信と希望的観測の“ドリーマー男”をめぐる、女たちの来し方と行く末
同時期に発売された雑誌の連載作品が、偶然にも深くリンクしていたのでご紹介します。まず1つには「ココハナ」3月号(集英社)に掲載された水城せとな先生の『脳内ポイズンベリー』第26話です。
順調に売れ続けるいちこのケータイ小説。原稿料や印税が振り込まれると、出版社からはその金額を通知する「支払い調書」というものが郵送されてくるのですが、ベッドの上に放っておいたその支払い調書を、恋人である芸術家の卵・早乙女が盗み見してしまいます。自分の作品があるミュージシャンのPVに使われることになって喜んでいた早乙女でしたが、いちこに支払われた印税の金額を見て愕然。途端に不機嫌になり、わけも言わぬまま、食事の途中で帰ってしまうのでした。
一方、「Kiss」3月号(講談社)に掲載された東村アキコ先生の『東京タラレバ娘』第6話では、「早乙女のその後」とでもいうべき状況が描かれます。今回の主役はネイリストの香、33歳。ふと10年以上前に付き合っていた売れないバンドマン・涼ちゃんのことを思い出します。香のために「どうしようもないオレに地球最後の日に天使が降りてきた」というちょっとアレな曲まで作ってくれた彼とは、その後、香の浮気が原因で別れることになります。ところがある日、たまたま見に行った人気バンドのライブで、ギタリストとして活躍する彼の姿を発見! 控え室で感動の再会を果たすも、もちろん彼にはすでに別の女がいるわけです。そうそううまくは行きません。
男子における「ドリーマー問題」の、現在進行形と過去完了形とが、ここには示されています。根拠のない自信と希望的観測、生活力の欠如、そして無駄に高いプライド。ある一定の角度から見ると魅力的に見えてしまうこともあるドリーマー男と付き合って、貴重な結婚適齢期を無為に過ごした方も少なくないことでしょう。
だけどもしかしたら、早乙女は涼ちゃんのように大成するかもしれない。その可能性がゼロではないし、愛する人だからこそ、その可能性を信じたいという思いもあります。では一体どうすればよかったのでしょうか? それは誰にもわかりません。こちらは一向に構わなくても彼の無駄に高いプライドが邪魔をすることもあるでしょうし、もちろんあなたが疲れ果ててしまうこともあるでしょう。ただ1つ言えることは『東京タラレバ娘』が言うように「時間は巻き戻せない」のです。「私達の乗ったレーンは一方向に進み続ける」のです。過去よりも今を、そして未来を。「ドリーマー男」の映し鏡は「“いつか王子様が”女」です。くれぐれも、その罠にはまることのないように……。
【後編につづく】
小田真琴(おだ・まこと)
女子マンガ研究家。1977年生まれ。男。片思いしていた女子と共通の話題が欲しかったから……という不純な理由で少女マンガを読み始めるものの、いつの間にやらどっぷりはまって、ついには仕事にしてしまった。自宅の1室に本棚14竿を押しこみ、ほぼマンガ専用の書庫にしている。「SPUR」(集英社)にて「マンガの中の私たち」、「婦人画報」(ハースト婦人画報社)にて「小田真琴の現代コミック考」連載中。