情けない35歳イケメン・玉木宏が、タチの悪い「男の無自覚」を好演する『残念な夫。』
■玉木の「幼さ」が男の無自覚を表出
ドラマの作りは、『アットホーム・ダッド』や『結婚できない男』(ともに阿部寛主演&尾崎将也脚本、フジテレビ系)の、中年男性を主人公にしたコメディドラマに近い。しかし、脚本家が女性(山崎宇子、阿相クミコ)のためか、陽一を描く目線は優しくもシビアだ。
今期は、『残念な夫。』を筆頭に『○○妻』(日本テレビ系)、『デート~恋とはどんなものかしら?~』『問題のあるレストラン』(ともにフジテレビ系)、『流星ワゴン』(TBS系)など、残念な男が登場するドラマがなぜか多い。
切り口はそれぞれ異なるが、男たちに共通するのは、少年性や男のロマンの裏返しで女性蔑視の感覚を無自覚に振りかざし、周囲の女性を傷つけているところだ。これらドラマで強調されているのは、男と女の決定的なズレと断絶。そんな中、『残念な夫。』は、普通に起こり得ることが描かれており、現実的である。男と女の溝を少しずつでも埋めていこうという誠実な脚本にも好感が持てる。
しかし、演出がうまくいっていない。小物で散らかった部屋や、子育てで疲れ果てた倉科カナの服装や所帯じみた佇まいといった家の中のビジュアルはハマっているが、ときどき、パラパラ漫画になったり早送りになったりと映像の味付けが過剰なために“残念な夫あるある”という素材が、相殺されてしまっているのだ。
ユニコーンの楽曲を劇伴にして、空回りする夫のドタバタを見せるというアイデアは悪くはない。しかし、後ろの方でガチャガチャ鳴っているだけで、あまり効果的に使われていないことがほとんどだ。淡々とした尾崎将也作品との差別化を図ったのかもしれないが、もう少し落ち着いたトーンでもよかったのではないかと思う。
今後は、陽一以外にも、妻には頭が上がらない陽一の上司・細井茂(岸谷五朗)や、仕事の不安から妻に暴力を振るう陽一の顧客・須藤俊也(EXILE・黒木啓司)といった違うタイプの“残念な夫”も描かれそうだ。しかし、あまり物語の範囲を広げると、せっかくの“あるある感”まで消えてしまいそうで心配だ。この心地よい物語のサイズだけは、最後まで死守してほしい。
(成馬零一)