『映画系女子がゆく!』が示した、イタさも錯乱も内包する「女」という生き物の面白さ
――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン(サイ女)読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します!
■『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』(鈴木涼美、幻冬舎)
「元日本経済新聞記者が人気AV女優だった!」と、週刊誌にスキャンダラスに書き立てられたのは去年のこと。『身体を売ったらサヨウナラ』は、平均以上のお嬢様として育ち、慶應大学、東大大学院、日本経済新聞社へと進みながら、同時進行で女子高生時代にブルセラショップで稼ぎ、銀座のクラブで稼ぎ、AV女優を経た鈴木涼美氏のエッセイ集だ。
冒頭で「シャネルに囲まれて独りぼっちで夜を過ごすのは嫌だし、だけどどんなに働いてもシャネル1つ買えないのはもっと嫌だし、高い服を着たいし高い商品でありたいし、愛してくれないと嫌で、愛してくれるだけじゃ嫌なのだ」と吐く彼女による、『pink』(岡崎京子、マガジンハウス)、『ハッピー・マニア』(安野モモコ、祥伝社)を思わせるような、都会と愛と消費の日々がつづられる。
「ブランド物がなくても幸せだよ」と語る人に激しく疑問を投げ、たまに出会う「人と違う価値観を持っている俺」の自意識に厳しくツッコミを入れ、その同じ鋭さで、全ての種類の幸せと呼ばれそうなものを欲しがっている自分にもツッコミを入れる。著者が欲するのは恋愛とお金、だけじゃない“ふるえるほどの幸せな瞬間”。正直に自分の欲しいものを見極めて手を伸ばす彼女の、経過報告書なのだ。
■『おだまり、ローズ 子爵夫人付きメイドの回想』(ロジーナ・ハリソン:著、新井潤美:監修、新井雅代:翻訳、白水社)
<奥様が、こちらに向き直っておっしゃいました。「どうかしら、ロ-ズ?」即座にぴったりの答えがひらめきました。「カルティエの店先ですね、奥様」>
『おだまり、ローズ』は、20世紀半ばのイギリス、子爵夫人レディ・アスターにメイドとして勤めた女性が、ユーモアたっぷりに自身の半生と貴族の屋敷に勤めた日々を振り返る回想録だ。
有力貴族の一員であり、欧米では英国初の女性国会議員として知られるレディ・アスター(ナンシー・アスター)。人一倍パワフルでユーモアを愛する賢い女性だったが、一方で、些細な一言に激昂したり、時に他人に意地悪を仕掛けたりする一面もあった。そんな厄介な女主人にクビを覚悟で口答えしたローズは、逆に気に入られるようになり、レディ・アスターが亡くなるまでの35年間、「おだまり、ローズ」と言われ続けながらも黙ることなく、勤め続けることになる。
時には暴力寸前に至るほど激しかった2人の言い争いが、次第に息の合った掛け合いのようになる過程は、よくできた相棒物の映画のように楽しめる。世界大戦や緩やかな貴族階級の没落を経て、主従関係の一線は保たれたまま、家族のような、親友というより悪友のような不思議な関係性が紡がれていくのだ。
また、貴族階級の優雅な暮らしや、その生活を支える執事やメイドたちの多忙な日常生活が、手に取るように描かれているのも本作の魅力の1つだ。事細かい描写で、今はもう存在しない別世界にどっぷり浸ることができる。同時代を舞台にした海外ドラマ『ダウントン・アビー』(NHK)シリーズ好きには、間違いなく楽しめるだろう。