『銭の戦争』――冷たさと優しさの両極で光る俳優・草なぎ剛の“凡庸さ”という武器
■SMAPの中で俳優として突出した草なぎの“強さ”
借金取りに身を落とした白石を、草なぎ剛が好演していて、じっと耐える表情を見ているだけで、鎮痛な気持ちが伝わってくる。ともすれば安易な人情話になりかねない話だが、草なぎの演技には、どれだけ派手に暴れ回って叫んでも、常に乾いたトーンがあり、それが本作に突き放したドライな味わいを与えている。
一方、“人間らしい良心”を体現しているのが、全てを失った白石を絶望の底で受け止めてくれた白石の恩師・紺野洋(大杉蓮)と娘の未央(大島優子)。白石の傲慢で嫌な奴だが頭が切れるという要素を残したまま、甘い部分を紺野親子が担うことで、重たいストーリーもストレスなく見られる作りになっている。
洋が連帯保証人となったことで背負った借金を返すために、未央は愛のない結婚を迫られるが、白石に助けられて結婚式から逃げ出す。そして、結婚式のキャンセル料と慰謝料を請求された未央は、金を作るために勤務する会社の顧客情報を売ろうとするが、ギリギリのところで踏みとどまる。おそらくこの、ギリギリのところで良心を捨てずに「踏みとどまる」ことこそ、本作が描きたいことなのだろう。
草なぎ剛が所属するSMAPは、言わずと知れた国民的アイドルグループだ。彼らが出演するドラマは、残念ながらメンバーの人気が大きくなるにつれて、年々保守化している。そんな中、名バイプレイヤーとしての地位を確立しつつある稲垣吾郎を別枠とすれば、草なぎの出演するドラマは、『任侠ヘルパー』や『独身貴族』(ともにフジテレビ系)など、見応えのあるものが多い。
それは他メンバーが、年齢不詳のヒーローしか演じられなくなっていく中、草なぎだけが年相応の人間を演じられるからだろう。SMAPの中では一番凡庸で、ドラマ初主演『いいひと。』(1997/フジテレビ系)もSMAPの中で一番遅かったが、その凡庸さが年齢を重ねることで、強みとなってきている。役者としての転機となったのは少年犯罪を扱ったドラマ『TEAM』(99/フジテレビ系)だろう。文部省(現在の文部科学省)の役人として刑事と一緒に少年犯罪を捜査する姿は、役人の冷たさと人間的な優しさが同居していて、後の主演ドラマにおける草なぎのパブリックイメージとなっている。
とはいえ、ジョージ秋山の問題作をリーマンショック以降の不況下でリメイクした『銭ゲバ』(日本テレビ系)や、闇金に手を染めた債権者が借金地獄に落ちていく姿を描いた『闇金ウシジマくん』(MBS系)に比べると、『銭の戦争』は、ピカレスクドラマとして、踏込みが甘い部分も多い。白石の頭の良さも、ドラマを見る上では安心感につながっているのだが、それが結局、予定調和のヒーローものに見えてしまうのが惜しいところだ。
しかしそんな、程よい暗さと甘さこそ、草なぎ剛の魅力であり、SMAPの持つ少しだけ先鋭的だが大衆性を保っているバランス感覚なのだろう。これ以上キツイと見てられないが、これ以上甘いと、草なぎが演じる意味自体が失われてしまう。『銭の戦争』は、そんな危ういバランスの上で成り立っている。
(成馬零一)