「おばさん」になりたくない――女と「おばさん」の分断と、地方都市の中年女性たち
■恋愛・既婚・専業の壁をなくした「私」
しかしこの年になって、遅まきながら私は気付きました。10~50代くらいまでの女性を通して見ると、更年期の「おばさん」ど真ん中世代の人ほど、外見も中身もバラエティに富み、個性もはっきりし、彩り豊かな楽しい年代はないのではないかと。
大ざっぱな言い方ですが40代半ばくらいまでの女性は、恋愛に積極的なタイプか否か、既婚か独身か、専業か兼業かといった点が、その人の外見や振る舞い方に少なからぬ影響を与えています。人をさまざまなレベルで突き動かす「性欲」と「被承認欲」のあり方も、そうした位相の違いからある程度読み取れます。
それが、仕事も子育ても一山越し、「生物のメスとしての活動」にほぼ終止符を打ったあたりから、少しずつタガが外れてきます。社会的役割やライフスタイルの中に埋もれていた「私」が、ムクムク大きくなってくるのです。それを後押しするのは、「おばさん」で十把一絡げにはされたくないという気持ちと、「おばさん」だからこそもっと自由になれるのでは……という気持ち。
もちろん年を取ったからといって、性欲と被承認欲がなくなってしまうわけではありません。「愛情(広い意味での性欲)を、どこにどう向けるか?」と、「共同体の中でどんな関係性を求めるか?」は、中年後期の女性にとっても重要な問題です。それを私はそれぞれ、「ナルシシズム/フェティシズム」「献身欲/自己顕示欲」を通して見たいと思います。平たく言い直せば、「自分を愛でたい」欲が強いか「何かを愛でたい」欲が強いか、「必要とされたい」欲が強いか「一目置かれたい」欲が強いか。中年になればなるほど、こうした欲望がより純粋かつダイレクトに出てくるのではないでしょうか。それはファッションにも現れます。
この2つの座標軸でできる図の中に、私がこれまで観察してきた特徴的なタイプを配置してみました。多くの地方都市にそれぞれ一定の層が存在しているはずです。介護世代としての重荷は背負っているけど、あれに挑戦したい、これも極めてみたいというやる気はまだ十分あるこの世代の女性たちは貪欲で、自己表現から社会参加まで何かに夢中になれる「没頭力」も高めです。あなたの周囲にも何人かいませんか? ちなみに私自身は、この8つのうちの半分以上のタイプに多かれ少なかれ引っかかっています。
「おばさんにはなりたくない」という否認から始まり、「でもどんどんなっていく」という焦燥に晒されつつ、「こうなったら、もっとやりたいことをやろう」という緩やかな転換を経て、「これって、おばさんになったからこそわかる醍醐味かな」というところまで来る。その先に、「おばさんって楽しい」という大きな肯定が待っているのではないでしょうか。そんなことを期待しながら、8つのタイプの心理について考察していきたいと思います。
大野左紀子(おおの・さきこ)
1959年生まれ。東京藝術大学美術学部彫刻家卒業。2002年までアーティスト活動を行う。現在は名古屋芸術大学、トライデントデザイン専門学校非常勤講師。著書に『アーティスト症候群』(明治書院)『「女」が邪魔をする』(光文社)など。共著に『ラッセンとは何だったのか?』(フィルムアート社)『高学歴女子の貧困』(光文社新書)など。
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