代表的マンガランキング『このマンガがすごい!2015』、順位より大事な“読み解き方”
【回顧2014】21世紀のベストオブ少女マンガ『町でうわさの天狗の子』がついに完結
『町でうわさの天狗の子』12(小学館)
脱輪したトラックを持ち上げて道路へ戻したり、ふとした拍子にベニヤ板4枚をへし折ってしまったり、まるで往年のアラレちゃんのような怪力をごく稀に発揮する以外は、刑部秋姫は至って普通の女子高生なのです。同級生に恋し、携帯小説に涙し、中間試験に悩み、学園祭を楽しみにするその日々に、しかし確実に「天狗の子」であるという事実は影を落とし、その度に彼女はちょっと悲しい思いをするのでした。普通ではない女子高生が普通であることを願いながらも、大きな宿命に飲み込まれ、そして愛を知るまでを描いた一大少女マンガサーガ『町でうわさの天狗の子』(小学館)がついに完結いたしました。
本作に関しては好きすぎていまだ整理して語ることができません。確かにこれは少女マンガであるのですが、笑いあり、ファンタジーあり……と、いかようにでも楽しめる、懐の深い作品であるせいもあります。たとえば、本作は古式ゆかしい「難病もの」のバリエーションでもあります。秋姫が普通であることを妨げる「天狗の力」を、そのまま「不治の病」に置き換えればあら不思議、途端に物語は悲劇的な空気を帯びることでしょう。
そしてもちろん優れた学園ラブコメディであり、女の友情ドラマであり、時空を超えたラブロマンスでもあります。つまりテンプレート自体は至ってクラシカルでありノスタルジックであるのですが(それゆえにわたしのような中年も作品世界にすんなりと入り込めるわけですが)、組み合わせの妙とでも言いますか、読めばそこには新鮮さしかありません。完結を機にもっと多くの人に読んでいただきたい名作です。
河内遥先生『関根くんの恋』(太田出版)も6月に発売された5巻を以って完結いたしました。最終巻の怒涛のモノローグ! この独り相撲感こそが恋の醍醐味かもしれません。ただし自分自身の恋ではなく、他人の恋を傍観する立場においての、ですが。
ほかにも雁須磨子先生『つなぐと星座になるように』(講談社)が6巻で完結、樹なつみ先生の『花咲ける青少年 特別編』(白泉社)も5巻で完結いたしました。このあたりも一気読み候補に加えてみてください。
最後に14年(13年11月~14年10月発売分)の私的ベスト10を挙げます。15年もまた素晴らしいマンガに出会えることを祈りつつ。
1位 池辺葵『どぶがわ』全1巻(秋田書店)
2位 田島列島『子供はわかってあげない』上・下(講談社)
3位 萩尾望都『王妃マルゴ』1~2(集英社)
4位 入江喜和『たそがれたかこ』1~3(講談社)
5位 森本梢子『高台家の人々』1~2(集英社)
6位 近藤ようこ/津原泰水『五色の舟』全1巻(KADOKAWA/エンターブレイン)
7位 ほしよりこ『逢沢りく』上・下(文藝春秋)
8位 勝田文『小僧の寿し』全1巻(集英社)
9位 斉木久美子『かげきしょうじょ!』1~2(集英社)
10位 大久保ヒロミ『人は見た目が100パーセント』1(講談社)
小田真琴(おだ・まこと)
女子マンガ研究家。1977年生まれ。男。片思いしていた女子と共通の話題が欲しかったから……という不純な理由で少女マンガを読み始めるものの、いつの間にやらどっぷりはまって、ついには仕事にしてしまった。自宅の1室に本棚14竿を押しこみ、ほぼマンガ専用の書庫にしている。「SPUR」(集英社)にて「マンガの中の私たち」、「婦人画報」(ハースト婦人画報社)にて「小田真琴の現代コミック考」連載中。