『ファーストクラス』『モザイクジャパン』ら2014年のドラマベスト5を選出!
『HERO』(フジテレビ系)『ドクターX ~外科医・大門未知子~』(日本テレビ系)など続編ドラマのヒットが印象的な2014年。『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)などドラマ評論で活躍するライター・成馬零一が2014年のドラマベスト5を選出した。
☆1位『ファースト・クラス』(ファーストクラス)(フジテレビ系)
『ファースト・クラス』(第二期は『ファーストクラス』)は、沢尻エリカがファッション業界でイジメにあうだけのドラマと、最初は舐めていたが、予想を上回る下世話さ(褒め言葉)と安直であるが故に先鋭化していった、テロップで表示される心の声の演出に病み付きとなった。ドラマの破壊力は第一期の方が強く、第二期は視聴率の面から失敗作と捉えられがちだが、チーフ演出の西浦正記を筆頭に、第一期のひどい演出を更に発展させた『ファーストクラス』スタイルとしか言いようがない様式美を確立した。うんざりするくらい下世話な物語でありがらも、新しいことをどんどんやろうとするバイタリティ自体が作品の魅力となっていた。
☆2位『モザイクジャパン』(WOWOW)
『モザイクジャパン』はWOWOWで放送されたR-15指定ドラマ。脚本は『最高の離婚』(フジテレビ系)の坂元裕二。ある地方都市が巨大アダルトビデオ会社の企業城下町となっていて、いたるところでAVの撮影をしているという設定がすさまじい。映画『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』のようなイリーガルすれすれのベンチャー企業の快進撃を描きながらも、坂元が追及してきた男と女の話となっている。WOWOWでの放送だったため、あまり見られてないが、12月にDVD化されたので、未見の方はチェックを。1話30分×5話と見やすく、完成度だけならダントツの仕上がりだ。
☆3位『アオイホノオ』(テレビ東京系)
『アオイホノオ』は脚本・監督の福田雄一の原作解釈が秀逸。80年代初頭の大阪芸大を舞台にした島本和彦の自伝的漫画のドラマ化だが、作中に登場するあだち充、高橋留美子、『ガンダム』といった作家名、作品名を画面で引用するための許可取りをしっかりおこなった再現力の高さにまずは圧倒される。同時にまだ終わってない原作をドラマ独自の解釈で決着をつけて、「青春の終わり」をしっかり描いたのは見事である。主演の柳楽優弥は本作でコメディ俳優として開眼した。
☆4位『さよなら私』(NHK)
2014年は、3本の連ドラの脚本を執筆した多作な岡田惠和だが、もっとも強烈だったのが、『さよなら私』。高校時代の親友だった専業主婦とキャリアウーマンが男を取り合う不倫ドラマかと思いきや、1話で、2人の魂と肉体が入れ替わるという映画『転校生』的展開に度肝を抜かれた。その後の展開もすさまじく、最終的にたどり着くグロテスクなハッピーエンドには注目。『セカンドバージン』(NHK)の黒崎博がチーフ演出を担当していることもあってか、不倫ドラマに対するパロディのようでもあった。
☆5位『天誅 闇の仕置き人』(フジテレビ系)
戦国時代からタイムスリップしてきた女忍者のサナ(小野ゆり子)が、泉ピン子演じる姑を中心とした秘密の自警団を結成し、現代の悪を次々と裁いていくという現代版・『必殺仕事人』のようなストーリーだ。出演俳優が柳沢慎吾、京本政樹、三ツ矢雄二とイチイチ濃い。フジがファミリー向けのドラマ枠として開拓しようとしていた金曜午後8時枠で放送していたのだが、裏番組のドラマ『三匹のおっさん』(テレビ東京系)に視聴率では敗退し、このドラマ枠自体が消滅してしまった。しかし、『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)と漫画『闇金ウシジマくん』(小学館)を足したような世界観は今でも忘れられない。チーフ演出は『ファーストクラス』と同じ西浦正記。DVD化はされていないが、『マッサン』(HNK)で泉ピン子に注目が集まっている今こそ、見直したい。
【総評】
昨年の『あまちゃん』(NHK)、『半沢直樹』(TBS系)のような社会現象といえる作品こそなかったが、『HERO』や『ドクターX』は、平均視聴率20%越えを記録。『花子とアン』『マッサン』(ともにNHK)といった朝ドラも相変わらず好調だ。
しかしほとんどの作品は10%以下で、全体の視聴率は低下の一途をたどっている。また、『明日、ママがない』(日本テレビ系)や『ごめんね青春!』(TBS系)といった、抗議を受けた作品もあり、作中に登場する実在の人物や固有名詞に対し、視聴者や企業が今まで以上にナーバスになっていることに気づかされる一年だった。『アオイホノオ』はそういった版権処理をしっかり行ったこと自体が高い評価につながったが、現実との答え合わせばかりが注目される状況は少し不健康に感じる。こういった状況に息苦しさを感じてか、視聴率や表現の規制がうるさくないBSやWOWOWで、岡田惠和、坂元裕二、野島伸司、木皿泉といった作家性の高い脚本家が書く傾向が強まったのも今年の特徴で、今後もそれら作家性の強い作り手の民放地上波離れの傾向は強まっていくのではないかと思う。
ここ数年、活躍する脚本家、演出家の顔ぶれが変わらなくなってきている。そのため完成度の高い作品は一定数あるのだが、全体を見ると停滞感が漂っている。視聴者も高齢化しており、30代~50代向けの「老い」を意識したドラマに傑作が増えてきたが、逆に言うとドラマ自体が若者の見るものではなくなりつつある。この傾向は来年も続くのだろう。
(成馬零一)