[サイジョの本棚]

異端児、魔女、韓流ドラマ……「男性優位社会の脅威となる女性」の変遷をたどる

2015/01/09 19:30

■『女はいつからやさしくなくなったか 江戸の女性史』(中野節子、平凡社新書)

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 『魔女の世界史』とは逆に、「社会から求められる女性像」の変遷を考察しているのが『女はいつからやさしくなくなったか』。著者は、タイトルで使われている「やさしさ」は、現代の私たちが考える「優しさ」とは異なる、古来の「艶っぽく、情が深い」という意味が含まれていると分析する。

 都市部では、料理や家計も主に男性の仕事とされた近世。たとえ夫がいても、男性から言い寄られればなびくような女性を「やさしい女」として、理想とする時代もあった。しかし江戸時代に入ると、理想の女性像は大きく2つに分裂していく。遊女には中世と変わらない「やさしさ」を求める一方で、妻の「やさしさ」は不貞とされるようになり、代わりに家を取り仕切るような実務能力が求められるようになる。

 どのような経緯を経て、都市社会が妻に貞節や家事能力を求めるようになったのか。著者は豊富な文献から、その背景には儒教の影響のみならず、庶民家庭の増加、漢字という男性言語を猛スピードで習得する女性の知識欲があった、と考察していく。そして、一見確固たる概念のように見える「理想の女性像」は、社会背景によって簡単に変わっていく。そのあやふやさも明らかになる一冊だ。

■『女たちの韓流――韓国ドラマを読み解く』(山下英愛、岩波書店)


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 『冬ソナ』ブームを経て、日本でも多くの愛好者を生んだ韓国ドラマ。『女たちの韓流』は、1990~2010年代に人気を博した韓国ドラマを取り上げ、女性学の見地から、現代韓国女性の生き方や家族観の変遷を浮き彫りにした一冊だ。ストーリーのクライマックスは伏せられているため、単純に韓国ドラマガイド本として楽しむこともできる。

 男性をけなげに支える清楚な女性が人気を集めた1990年代のドラマから、(現実に先駆けて)女性大統領が登場する2010年代のドラマまで、登場する女性の生き方はバラエティーに富んでいる。しかし、ドラマを通して浮かび上がるのは、韓国社会に色濃く残る家父長制が引き起こす男女格差、学歴偏重主義からくる経済格差、容姿至上主義――といった社会のひずみに立ち向かう主人公たちだ。そこには、日本に暮らす多くの女性にとっても他人事とはいえない、共通の苦しみがある。

 本書を通して、急激に近代化を迎えた韓国では、日本よりさらに凝縮された形で社会格差が現れていることがわかる。その抑圧が大きいからこそ、現実を乗り越えるための、たくましいエンターテインメントが生みだされるのかもしれない。韓国ドラマが多くの日本女性から支持を集める、その理由の一端を探ることができる。
(保田夏子)

最終更新:2018/07/30 18:08