『ダークスーツ』『昼顔』――30代の肉体的な色気で躍進する、斎藤工の“強度”
その後、物語は一之瀬がライセンスビジネスを発案した仲間たちと共に重役たちを探偵のように調査して裏金の証拠を握ることで、一人ひとり自分たちの味方につけていく展開になっていく。重役たちは怪獣や怪人のような不気味な存在と描かれているため、まるで会社を悪の組織に見立てた特撮ヒーローもののようにも見える。
台詞もカッコよさ優先なのか、「ハシバには深い闇がある」、「君が戦うならコインを取れ」といったキャッチーな決め台詞が次々と登場する。そんな世界観に斎藤の存在感がバッチリはまり、作中の一之瀬は、終始勇ましく、カッコよく走る。あえて不満を言うならばスーツの下に隠された肉体美が拝めないことぐらいだろうか。
■草食系イケメンから肉体派の変遷に乗った斎藤工
『ミス・パイロット』や『僕のいた時間』(ともにフジテレビ系)といった作品では若い主人公たちの少し年上のクールな先輩役を演じていた斎藤だが、本作のようなおっさんばかりの中に放り込まれると、顔は濃いが唇が厚く実は童顔だということに気づかされる。30代に入ったからこそ、斎藤の若さが際立つという面白いパラドックスが起こっているのだ。
数ある斎藤の出演作で、もっとも強烈な印象が残っているのは『古代少女ドグちゃん』(MBS)のパイロット版だ。斎藤は半裸の戦士・ドキゴローを演じていたのだが、今、振り返ると、その肉体からにじみ出る野蛮な色気に圧倒されたのかもしれない。『ドグちゃん』は深夜に放送されていた特撮ドラマだが、特撮出身のイケメン俳優というと戦隊ヒーローや仮面ライダーにどうしても偏ってしまうが、深夜ドラマ枠に目をやると子ども向けの作品ではできないカルトな表現に踏み込んだ隠れた傑作も多数ある。本編の『ドグちゃん』には窪田正孝も出演していて、こういった深夜の特撮ドラマという辺境で怪気炎を放っていたイケメン俳優たちが、ここ数年頭角を現しはじめているのだ。
ほかにも、映画『HK/変態仮面』で肉体美を披露した鈴木亮平が『花子とアン』(NHK)でブレイクしたり、ここにきて肉体派のイケメン俳優が次々と進出し始めているのは、線の細い草食系イケメン俳優が優位な状況が、少しずつ変化し始めているからのようにも思える。
(成馬零一)