覚せい剤で錯乱、監禁&抗議の絶食!! 『ベルばら』池田理代子の容赦ない学園ドラマとは?
また同じくソロリティのメンバーである、クラスメートのマリ子さんは、クレオパトラ似(やっぱり歴史上の人物で形容!)の美女で、奈々子に執着し、追いかけ回すようになる。その行為はエスカレートし、自宅に招待したかと思ったら、「いっしょにおふろにはいらない?」と誘い、「泊まっていって。帰ったら殺してやる」と脅しにかかるほどに。怖いです。奈々子が逃げ帰ると、マリ子さんはそのまま絶食して抗議。そんなマリ子さんを、奈々子は「こんなにも心のありったけで求めてくれるものを、どうしてこばめよう。ありがとう」と言って感謝するのだ。寛大です。若いうちなんて、自分とちょっとでも価値観が異なる相手とは距離を置いたり悪口言ったりするものだけど、監禁しようとした相手を、涙を流して許してあげるとは、奈々子ったらもう聖母のようじゃないか。
ソロリティの代表格である蕗子さまもやはりメンヘラチックである。なんだか非常に偉そうな縦巻きのお嬢様なのだが、剣山でサン・ジュスト様にケガをさせたりして、性格にいろいろ問題がありそうだ。
いや、わかってるよ。池田理代子先生は、いつでも社会に立ち向かう女性を描いてきた。複雑な家庭を持つことや身体の不調など、登場人物それぞれが抱える悩みと、社会の目の厳しさ……悩み、苦しむことも多いだろう女の人生は、嗚呼なんて生きにくいのだろうと訴えているのだ。この作品でも 理代子先生は、女の価値を見た目の美しさと血筋、テストの点数で図って優越感に浸るグループであるソロリティを、社会の縮図として批判されたのではないだろうか。
……なんだけど、理代子先生と言えば、言わずと知れた『ベルサイユのばら』(集英社)である。筆者はもう何度読み返したかわからない作品で、となると、『おにいさまへ…』の登場人物が、どうしてもベルばらのキャラに見えてしまうのだ。
ソロリティ廃止に反対する蕗子さまは、王政にしがみつくマリー・アントワネットに、薫の君は髪を切ったあとのアンドレに。序盤、登場したときはてっきり男性かと思っていたサン・ジュスト様はオスカル様に。そしてマリ子さんの家に閉じ込められそうになって泣き叫ぶ奈々子は、ジャンヌに騙されて鞭で打たれるロザリーに。
しかし、こんなにドラマチックなのに、ベルばらムード満載なのに、舞台が「日本の学園」だということに、どうも頭がついていかないようだ。 奈々子監禁事件といい、この学園で起こる事件はいちいち大きすぎる。連載時の1974年にはまだ覚醒剤問題は一般化していなかったと思うけど、「覚醒剤いっぱい飲んで錯乱する高校生」とか、そこらの学園モノには出てきませんよ。「学園モノときたら、ふわふわ恋愛もの」という先入観も視界に分厚いカーテンを掛けているのかもしれないけど、どうしても「こ、これが日本の女子校……!? フランス革命じゃなくて?」という驚きが先に立ってしまうのである。申し訳ございません。
■メイ作判定
名作:迷作=6:4
和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター、少女漫画研究家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、語学テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。街で見かけたおかしな英文から英語を学ぶ「Henglish」主宰。