カルチャー
[官能小説レビュー]

『堕落男』が考えさせる、「男にとって“過去にセックスした女”とは何者なのか?」

2014/11/17 19:00
『堕落男』(実業之日本社)

■今回の官能作品
『堕落男』(草凪優、実業之日本社)

 セックスとは、そもそも人と人をつなぐ行為だと思う。しかし今の世の中、男女ともにその瞬間の性欲をぶつけ合いたいだけだったり、セックスの延長線上に何も見いださないことも不自然ではない。一方で、「この人と結婚したい」などと、将来の関係性を約束するために打算的に体を開く人もいる。どちらにしても、「人と人をつなぐ行為」とはかけ離れた、薄っぺらな情念の上にセックスが成立している気がしてならない。今夜、淋しいからセックスをする。将来が不安だからセックスをする。

 あまりにも希薄な行為の先には、一体何が生まれるのだろうか。今回ご紹介する『堕落男』(実業之日本社)は、現在活躍している官能小説家の中で、私が一番に推薦したい作家・草凪優の、渾身の書き下ろしだ。混沌とした世の中、咄嗟の弾みでボタンを掛け違ってしまうと、そこから先はコロコロと転がるように奈落の底へと突き落とされてゆく……そんな条理をある男が教えてくれる作品だ。

 主人公の梶山は、決して希有な男ではなかった。広告代理店の会社員として給料を手にし、円満な家庭を築いていた。しかし、性欲に溺れた不倫劇をきっかけに離婚、仕事では退職勧告を受け、結果的に場末のバーのマスターに落ち着くという、転落人生を送っている。

 物語は、梶山のバーでの殺人事件から始まる。近所のクラブでホステスをしている恋人の歩美は、事あるごとに梶山に金品を要求。その日別れ話のもつれから口論になったが、テーブルの端に頭をぶつけた歩美は、二度と起き上がらなかった。梶山は、歩美の死体を目下にして、呆然とするばかりだった。

 脱サラし、行き当たりばったりでバー経営を始めた梶山には、死体を置いて逃走し続ける軍資金も持ち合わせていない。そこで梶山は、かつて体を重ねた3人の女たちを思い出し、金を無心しに放浪することになる。

 梶山の過去の女たち――1人目は、代理店時代に就職を世話することになった天真爛漫な13歳年下のリノ。学生時代に女と楽しんだ経験など皆無だった梶山にとって、当時大学生だった彼女と交際することは、まさに「サラダデイズ」だった。リノとのセックスに溺れ、明け暮れた日々は新鮮なひとときだった

 2人目の女は、スポーツクラブで出会ったクニカ。彼より1つ歳上のクニカは、恵比寿でセレクトショップを経営していた。彼女とは、スポーツクラブ後の飲み仲間として関係が発展。クニカには3歳年下の夫がおり、梶山はダブル不倫となりながらも、彼女の体に溺れてゆく。ついには、クニカ夫妻の離婚劇に巻き込まれ、彼自身の家庭も壊してしまう。そして、梶山のもう1人の女である妻・サナエは、産まれたばかりの息子を連れて、家を出て行ってしまうのだ。

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