カルチャー
『なんかおもしろいマンガ』あります ~女子マンガ月報~【11月】前編

『あれよ星屑』『あとかたの街』、本ではなくマンガだから伝わる戦争と愛と人間

2014/11/19 21:00

 燃え盛る街を見つめながら愛国歌を詠み上げる「モッさん」。「わが詩をよみて人死に就けり」と自らの愛国歌を悔やむ「コタロー」。南方の戦地にあった「犀」は、その作品の熱烈なファンであるという学徒兵の詩に感心します。中でも首に疵のある人妻との恋を描いた一編の詩は犀の心を打ちました。実話ではないと彼は言いますが、夫が戦死して悲嘆のあまり小刀で首を切った人妻の存在は事実であり、自分が彼女に恋焦がれていたこともまた事実ではあると言います。そんな彼も戦地で短い生涯を終えました。遺された彼の手帳と想い人の写真を見ながら、犀は思います。「彼の死体は蟻と蛆と鳥達によってあっという間に白骨になった」「女を知らぬまま死んだ彼は」「その詩の中で彼女を抱くのだ」「何度も 何度も 何度も」

 本能に従属するものであり、また多様な選択肢を持つ食と性は、豊かさと自由の指標でもあります。カウンターカルチャーであるマンガはそのことを熟知しています。だからこそ戦争のくだらなさも、命の愛おしさも、「みかんの皮の砂糖漬け」のおいしさのようなささやかな幸せも、十全に描くことができるのです。活字の本を読むことが知性の象徴であったような時代は終わりました。なぜなら今日び大多数に読まれている活字の本は、人に思考停止を促すくだらないものばかりだからです。賢明であることを望むのであれば、今こそマンガを読むべき時です。

【雑誌】「フラワーズ」に待望の岩本ナオ先生の新作が登場

 『町でうわさの天狗の子』(小学館)の終了からおよそ1年、ついに岩本ナオ先生の新作が発表されました。「フラワーズ」12月号(小学館)掲載の『金の国 水の国』がそれです。舞台は中央アジアのようでもあり中東のようでもあるオリエンタルムード漂う2つの国、貿易の中継地点として栄える商業国家A国と、水と緑豊かなB国。この2国は「毎日毎日お前んちの草がこっちに入っただの、お前んとこの布団をたたく音がうるさいだの、つまらないことでいがみ合い」「とうとう犬のうんこの片づけの件で戦争になってしまい」ました。仲裁に入った神様によって、A国は国でいちばん美しい娘をB国に嫁にやり、B国は国でいちばん賢い若者をA国に婿にやることになりました。

 ところがふたを開けてみれば、B国は「いちばん賢い若者」ではなく犬を、A国は「いちばん美しい娘」ではなく猫を、それぞれ送りつけてきたのです。この事実が明るみとなって戦争となることを憂慮したA国の姫は、森で出会った青年を身代わりとして誤魔化そうとするのですが……。「なんとかうまくいきますように」という一文で前編は閉じられます。

 なんとかうまくいきますように――岩本先生が紡ぐ物語は、いつだって過大な夢や野望を抱くものではありません。『町でうわさの天狗の子』の秋姫がそうだったように、平穏な日常を、ささやかな幸せこそを大切にしたいと願うのが、岩本先生の物語なのです。この「なんとかうまくいきますように」という一文には、そんな岩本作品の特徴が強く表れているように感じます。

 ところで主人公の2人は森の中で出会うのですが、これはタイトルの「金の国」と「水の国」に掛けたものでしょうか? 「水」曜日と「金」曜日の間は「木」曜日だから……とか……? それはさておき、心やさしい主人公たちの行く末はいかに。2月号に掲載されるという後編がとても楽しみであります。

小田真琴(おだ・まこと)
女子マンガ研究家。1977年生まれ。男。片思いしていた女子と共通の話題がほしかったから……という不純な理由で少女マンガを読み始めるものの、いつの間にやらどっぷりはまってついには仕事にしてしまった。自宅の1室に本棚14竿を押しこみ、ほぼマンガ専用の書庫にしている。「SPUR」(集英社)にて「マンガの中の私たち」、「婦人画報」(ハースト婦人画報社)にて「小田真琴の現代コミック考」連載中。

最終更新:2014/11/19 21:00
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