聞くだけでOKの“怪”スピリチュアル美肌術が、コンプレックス女を暴走&陶酔させるワケ
美しくなりたい――世の女たちの狂おしい思いを、「44歳、ゲイ、汚部屋に一人暮らし」の漫画家・大久保ニューが担ぎ込む! 古今東西あらゆる美容法に食らいつき、美を追い求める女の情念まで引きずり出す――
美容フリークである担当編集のJ子(27歳)が、いよいよ美容界のドンであるSK‐2に手を出したらしい。しかし「期待していた劇的な変化がありませんでした……」と不満げな顔をしている。当たり前だ。J子は元々、肌がキレイなのだ。思春期にニキビで悩んだJ子が美肌に執着してしまうのは、アトピー持ちの私には痛いほどわかる。しかし、ニキビも落ち着いた20代の若い肌が「劇的な変化」を望んだところで無理な話だ。私がSK‐2を初めて使ったのは40歳の時だった。もう、本当にくたびれまくり&くすみまくりの四十肌。そんな肌に使ったSK‐2は「劇的」だった。J子と私の違いは、ちょっと散らかった部屋を掃除したのと、汚部屋のゴミを一掃したのとの違いみたいなもの。「劇的」が欲しいなら、落ちるとこまで落ちてからよ☆
しかし、J子はしぶとかった。「もっと劇的な変化が欲しくって、スピリチュアルに手を出そうと思うんです☆」と宣言してきた。確かに、金を積んでもダメだったら、残るはスピリチュアルしかないかもね。「それで、こんな本を見つけたんです☆」と、J子から手渡されたその本は『一瞬でキレイになるスピリチュアル美肌ケア』(現代書林)。サブタイトルには「トラブル肌が解決!」とある。「また変なものを見つけてきたわね……」と、得意げに虫を捕まえてきた飼い猫を見るような気持ちになったが、その本には「聴くだけで美肌になるスペシャルCD」が付いている。それはちょっと聴いてみたいわね……。好奇心に負けて、私も購入してみることにした。
さて、初めて読むジャンルである、スピリチュアル美容本。帯には「触らずに頬が上がってゆくのを鏡で見られる快感!!」と謳われていて、どんなテクニックを伝授してもらえるのかとドキドキしていたが、思いっきり肩すかしをくらった。先に明かしてしまうと、この本の9割は、作者である福田まみさんの自伝&宣伝なのである。どのようにしてスピリチュアルの世界と出会い、目覚め、ヒーリングサロンを開業し、お客さんに喜ばれているかの説明で占められる。「一刻も早く頬を上げたい!」と、美容目的で読んだ方は「どこまで読んだら実践できるのよ!?」と、頬より先に眉が吊り上がってしまうこと必至だろう。
そしてさらに、本の中で頻出してくる「TDE」という存在が怪しいのだ。文中に「わたしが(サロンの施術で)使っているのは、TDE(Transcen Dental Energy:未知のエネルギー)という不思議なエネルギーです」と、いきなり登場。「TDE」とやらは、1回の施術で肌がしっとりしたり、目のくまが消えたりするパワーがあるらしいのだが、その名称に妙なゴリ押し感が漂う。しかし、この先に頬の上がる展開があるのだと、疑惑を飲み込んで読み続けると、またもいきなり「TDEを使いたいと思ったわたしは、とりあえずPH会員になりました」という文章が登場する。「とりあえず」では済まされない濃厚な黒幕感。「エネルギーに対する猜疑心はそのままでしたが、(株)パーフェクトハーモニー(PH)という会社が運営していると知って、少しは安心できました」と続くのだが、こちらは不安が高まったわよ!?
長い自伝パートを読み終えたが、随所に登場するPH会への賛美(最後にはPH会の代表との対談も収録)に、どうしても警戒心がざわめく。しかし、福田さんはJ子と同じく「青春時代のニキビに苦しんだ」人らしい。悪くは思えない。私もアトピーが悪化した時は、血まなこで治療法を探したものだ。それは「解決策」というよりも「救い」を求めていたような感覚だ。ある種、宗教めいた神秘性を持つスピリチュアルの世界に惹かれるのは、自然といえば自然な流れである。まあ、高額な化粧品にぶっ込むよりも、なんか「神秘的な女」って感じがして気分がいいしね☆