カルチャー
映画『花宵道中』安達祐実氏インタビュー

「吉原の遊女と子役時代の自分は重なる」安達祐実が語る、ずっと裏切りたかった“私”とは?

2014/11/04 19:00

――確かに、自分の生い立ちや身の上を恨む様子のない朝霧には、どこか少女っぽさを感じます。

安達 物心ついた頃から吉原にいるので、そこにいる自分に違和感がないんでしょうね。あまり疑問を持っていない人なんですよ、朝霧は。遊女であることも悲しくはない。多分(笑)。「生まれ落ちてしまったここが、自分の生きる世界である」というあきらめともいえると思います。普段はずっとそういう気持ちで生きてきた朝霧が、半次郎に出会うことによって、今まで自分がやってきた仕事に恥じらいを感じたり引け目を感じたり、さらに言えば「私が本当にいたいのはこの世界じゃないかもしれない」ということに気づいてしまったり、心の渦が轟いていく。

 そんな朝霧に、自分を重ねるところもあります。私は気が付けばもう芸能界で仕事をしていて、ほかの子たちは放課後遊んだりしていましたけど、特にその子たちと自分を比べることもありませんでした。中学生の頃には、「自分にとっては何よりも仕事が一番大切で、仕事さえあれば生きていける」と思っていましたから。でも成長して、恋愛をしたりする中で、やっぱり仕事だけでは生きていけない。人に愛されたいし、人を愛したいということに気づいてからは、人生で大切なものは1つじゃないんだなと悟りました(笑)。

――朝霧は、遊女という仕事に誇りを持つ一方で、言い知れぬ苦痛も感じていた。そこが見ていて非常に切なかったのですが、ご自身も似たような気持ちを抱いていましたか。

安達 例えば仕事と恋愛を両立させようとしたとき、仕事と育児を両立させようとしたときも、そうかもしれません。そこには葛藤がいつもあります。物事に対して、俳優としての思考で見るのと、母親としての思考で見るのとでは、“正しさ”が変わってくる。その摺合せですね。どちらを優先させるか、どちらをあきらめるか。

――それは、芸能人に限らず、多くの女性が感じているところですよね。今作品のオファーを受けるとき、迷いはなかったですか。

安達 芸能生活30周年なので、何か大きなことをやりたいという思いはずっと持っていました。自分でも作品を捜していて、そんな中でいただいたオファーだったので「やりたい役に出会えてよかった」という気持ちです。「濡れ場がイヤだった」といった思いも一切なく、ストーリーの中で必要があれば、演じることは全然問題ないなと。

――安達さんが一番好きなシーンはどこでしょうか。私はちなみに、遊女を罵倒した客に、「一発五文の鉄砲女郎でも買ってきな!」とタンカを切るシーンに痺れました。

安達 あれ、ちょっと言いたくなっちゃいますよね(笑)。あのシーンは実はすごく難しくて、どちらかというと、ほわっとしたタイプの朝霧が急にタンカを切って大丈夫かな、と不安でした。でも、監督がうまくバランスを見て撮影してくださったので、映画の中のいいアクセントになっていると思います。

 私としてはやっぱり花魁道中のシーンでしょうか。台本を読んでいる時点ではすごく不安があったんですよ。急に現実からイメージの世界に飛ぶシーンなので。でも出来上がってみると「これがなかったら成立しない」というくらい重要な場面になりました。あと、皆さんたぶんスルーされてると思うんですけど、個人的には、妹分の遊女・八津に「八幡さまに行こうよ!」と誘われているのに、「どうしようかな~」って朝霧がうじうじするシーンが好きです。ああいう曖昧さを持っているのも、朝霧なんでしょうね。ぼんやりしていて、子どもっぽいところがかわいいんです。

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