カルチャー
[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」11月7日号

現代だったら炎上案件、戸川昌子が「婦人公論」で“溺愛と虐待”の育児を語る

2014/10/30 21:00

 モノクロ写真でもわかるド派手な戸川と、じゃらじゃらチェーンにロン毛でこれまたヤンチャな二世感漂うNERO。現在はNEROが戸川のプロデュースをしたり、伝説的シャンソン・サロン「青い部屋」を戸川から引き継いだりと、親子鷹として活動している2人ですが、そこに至るまでは、まさに「溺愛」と「虐待」に溺れた日々だったようです。

 シャンソンサロンの女主人として、文人や芸術家と交流を深める母と、そんな奔放な母に追い詰められる息子。通信簿も性の目覚めもエッセイのネタにされ、それを「泣きながら『お願いだから僕のことは書かないで』って、土下座までした」のに全て無視! 「何を言われようと、別にどうも思わなかった。物書きの業ね。大切なものを犠牲にして、喰らって、それを自分の滋養にするのは」と涼しい顔の戸川。毎晩のように男に肩を抱かれて帰ってきては「私、子どもが好きじゃないんだ」「ガキは虫と同じ」と罵声を浴びせる。現代なら開始2秒でネット炎上ですよ。もちろんNEROも黙っていたわけではなく、小5で独立、激化する家庭内暴力……。「自分で自分が怖くなった。何かの拍子に殺しちゃうんじゃないかって。あまりにも憎しみが強かったから」。まさに家庭内アウトレイジ……。

 「自分の人生を生きる、と思った時、立ち直れたんだ。それまではどこか被害者意識を持っていたから」というNEROに、「虚しいよ、すべてを人のせいにして自分の人生を無駄にするのは」という戸川。血の醜さ、血の汚さをさらけ出し合った親子だからこそ出てくる言葉ではないでしょうか。決してオススメはできませんが、人の目・世間の目にがんじがらめになって身動き取れなくなっている方は、戸川の腹のくくり方、少~しくらいはご参考になさってもよいのかもしれません。

■手記を書いている瞬間が一番のエクスタシー

 巣立たない子どもに焦る裏側には、「ダメな親だと思われる」という対外的評価に怯える気持ちがあるのも否定できません。“良き母”“良き妻”でありたい、あらねばならないというプレッシャーは、いつの世も女性たちを苦しめます。だからこそ「婦人公論」は婚外恋愛に燃えるのです。続いては、ドラマ『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(フジテレビ系)ですっかりおなじみ、“昼顔妻”のリアルが浮き彫りになる「読者体験手記 禁断の、ほろ苦くも甘い味」を見てみましょう。「家庭を壊すつもりはないけれど……」不倫に走る主婦たちの生々しいレポートです。「老後資金と人生を子どもに奪われたくない!」と息巻いていた女たちは、しっかりちゃっかり生と性を取り戻しています。

 夫の浮気をきっかけに出会い系サイトに登録、「ただ誰かと、話がしたい。心の逃げ場が欲しかった」と言いながらホテルに直行した48歳妻、4年の歳月をかけてターゲットを定め「キレイになるために感じるセックスがしたい。あなたとしたい」と直球告白した53歳妻、15歳年下の職場の同僚と駅でカラオケで公園のトイレで欲望の赴くままに交わる42歳妻……それぞれがそれぞれの「理由」と「物語」を携えてうっとりと愛欲の日々を語っています。最初の出会いでは「彼のものもデニムの上からわかるほど固くなっている」で、関係を重ねると「彼のペニスもすごい硬さになっている」となり、この「固い」「硬い」を巧妙に使い分けるあたり、奥さん、素人じゃないね? 

 夫とのセックスレスに悩む主婦が不倫に溺れる姿を描いた小説『Red』(中央公論新社)の著者・島本理生はインタビュー「『良き妻』と『恋する私』を上手に使い分ける主婦たち」で、こうした昼顔妻の現実を「仕事をがんばり、家庭では良き妻、良き母を演じるために、世間的には『悪』と呼ばれている不倫に手を染めて心のバランスをとっている」と分析しています。「家庭を壊すつもりはない」という言い訳も「ひと昔前の男性が、妻にはおとなしくて家庭的な女性を選び、大胆で色っぽい愛人と付き合うという構図と同じ」であると指摘。「家庭」という枠、「妻」「母」という縛りがあるからこそ、燃えて萌える不倫。そこまでして守らなきゃいけない家族ってなんなのかと、「子どもの自立」特集と併せて非常に考えさせられる「婦人公論」なのでした。
(西澤千央)

最終更新:2014/10/30 21:00
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