相次ぐマンガ誌休刊の中、“売れるマンガ”の役割と少女マンガ誌の危ういスタンス
女子マンガ研究家の小田真琴です。太洋社の「コミック発売予定一覧」によりますと、たとえば2014年9月には1,034点ものマンガが刊行されています。その中から一般読者が「なんかおもしろいマンガ」を探し当てるのは至難のワザ。この記事があなたの「なんかおもしろいマンガ」探しの一助になれば幸いであります。前編では9月の話題のマンガと少女マンガ誌の最新情報をご紹介します。
【話題】「IKKI」「ジャンプ改」「もっと!」……マンガ誌の休刊相次ぐ中で読む『重版出来!』
マンガ誌の休刊が相次いでいます。しかも、よりによって先進的な雑誌ばかりが休刊してしまうのですからやるせありません。小学館の「IKKI」、集英社の「ジャンプ改」、秋田書店の「もっと!」……いくつかの連載作品は発表の場を移して継続するようですが、雑誌の消滅を機にやや無理をして終わらせてしまった作品もまたあります。読者にとっても、作者にとっても、編集者にとっても、それは不幸なことでしかありません。
そんな中、松田奈緒子先生の『重版出来!』4巻(小学館)が、休刊したマンガ誌をめぐるエピソードを描いています。かつて所属していたマンガ誌「FLOW」が休刊になって以降、仕事に対してすっかりドライになってしまったマンガ編集者・安井。公私を厳密に区別し、作家に過剰な肩入れをすることなく、あくまでもビジネスとしてマンガを作る姿勢は、もちろん一部からは反感を買っています。しかし、彼には彼なりに「もう雑誌を潰したくない」という思いがあって、確実に売れる「商品」ばかりを作り続けているのでした。
ファッション誌のように多額の広告収入が望めるわけでもないマンガ誌は、実は大半がそれ単体では赤字です。連載作品の単行本の売り上げも込みで、やっと黒字になるものなのです。あくまでも雑誌は連載の「容れ物」であって、連載作品の単行本が売れないことには儲からないビジネスなのであります。
マンガ誌に代わって増加しつつあるのがWebでの連載です。すでに出版各社はWebでのマンガの連載を拡充しつつあります。『独身OLのすべて』『ZUCCA×ZUCA』などを生んだ講談社の「モアイ」は最も大規模なものの1つでありましょう。小学館は「クラブサンデー」「裏サンデー」「やわらかスピリッツ」「WEBイキパラCOMIC」などに細かく分かれていますが、合わせるとかなりの作品数になります。集英社は『ワンパンマン』を輩出した「となりのヤングジャンプ」のほか、各誌の公式サイトでいくつかのWebオリジナル連載作品を発表しています。紙に比べればリスクの低いWebにおいてチャレンジングな作品が数多く生まれ出てくることは、もちろん歓迎すべき事態です。
しかし、それにしても悲しい気持ちになるのは、私が旧世代の人間だからでしょうか。楽しみにしていた作品のいくつか――例えば志村貴子先生の『娘の家出』は「ミラクルジャンプ」へ、えすとえむ先生の『IPPO』は「グランドジャンプPREMIUM」へ、岩岡ヒサエ先生の『孤食ロボット』は「Cookie」へ、斉木久美子先生の『かげきしょうじょ!』は「メロディ」へ、水沢悦子先生の『ヤコとポコ』は「エレガンスイブ」へ無事に移籍できたのはなによりなのですが、「魅力ある容れ物」としての雑誌という存在は、もはや必要とされていないのでしょうか?