Kis-My-Ft2・玉森裕太の“素人”っぽい初々しさがバランスをとった、『信長のシェフ』
■玉森の“芝居素人”っぽさが生きる役柄
織田信長を演じる及川光博はもちろんだが、今期は何より、高嶋政伸が演じる武田信玄が圧巻だった。ほとんど特殊メイクに近い眉毛とつながったヒゲのせいで、凄まじい形相となっていたのだが、それをギャグとして茶化さないで突き進み、ツッコミ目線は視聴者に預けているのが実に潔い。おそらく役者陣も、このドラマのユルさに乗っかってケレン味のある芝居を楽しんでいたのだろう。画面を見ていると、どうやって視聴者を驚かせるようかと、毎回たくらんでいる役者陣の気持ちが伝わってくる。
もちろん、ケンを演じた主演の玉森もうまくハマっていた。作中で、ケンに求められる役割は、戦国の世で合戦に明け暮れる戦国武将たちを相手に料理を振るうことで、台詞のほとんどは、料理の説明だった。そのため感情を全面に押し出す芝居は少なかったが、その淡々とした佇まいがケレン味たっぷりの芝居をする及川や高島と対峙したときにいい塩梅となっていた。これはそのまま、普通の現代人と豪快な戦国武将という対比にもつながっている。
ケンの相棒となる女刀鍛冶職人の夏を演じた志田未来も含めて、役者としてキャリアのある俳優陣がそろっている中で、主演の玉森が一番素人っぽくて初々しいのは、彼が現代から来たお客様という扱いだからで、その立ち位置が、結果的に演技力の差をカバーしていた。もしも、ケンを演じたのが玉森でなく、もっと演技慣れした俳優だとしたら、この初々しさと可愛げは、ここまで画面に出なかっただろう。
このように、一見安っぽいドラマに見えながら、欠点が欠点に見えないように脚本や役者の配置による細部のバランス調整が絶妙なのが『信長のシェフ』の抜け目なさだと言える。そして、前作に続き、相変わらず楽しそうに演じていたのが、明智光秀を演じたSMAP・稲垣吾郎だ。腹に一物ある曲者っぷりが見事にハマり、出てくるだけで胡散臭い空気を漂わせていた。
おそらく続編があるとすれば、最終章として信長が光秀の謀反にあう本能寺の変が描かれることになるのだろう。ケンが未来から来た人間であることを確信し、タイムスリップの概念も理解する男として描かれた光秀が、史実通りに信長を裏切るのかどうかが、本作最大の謎となっている。もし「Part3」があるのなら、もう一度深夜で再帰を図ってほしい。
(成馬零一)