永遠と幻を信じること――少女アイドルの内面を掘り下げた作品『5つ数えれば君の夢』
【9月の注目作】高野文子先生、12年ぶりの新作『ドミトリーともきんす』
『ドミトリーともきんす』(中央公論新社)
『黄色い本』(講談社)を読んだのが、もう12年も前のことだったとは! 高野文子先生12年ぶりの新作『ドミトリーともきんす』(中央公論新社)が9月25日に発売されます。九井諒子先生の『ひきだしにテラリウム』(イースト・プレス)などを世に送り出したWebメディア「マトグロッソ」で連載されていた作品をまとめたものです。不思議な学生寮「ともきんす」を舞台に、4人の科学者――朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹――との対話を、彼らの文章をもとにマンガ化しました……と、説明してもなかなか理解しづらいでしょうから、ぜひ読んでいただきたいマンガです。この作品に限らず、高野先生のマンガは単に「読む」だけに留まらず、トリップ感ある「体験」であるからです。
9月8日発売、池辺葵先生の『かごめかごめ』全1巻(秋田書店)はオールカラーのとても美しいマンガです。特に光の使い方にご注目ください。修道院の窓から差し込む光、空の雲間から降り注ぐ光、夜の部屋に広がる光、そして彼の帰りを待つ間の夕刻の光。もともと光の描き方が美しい作家さんでありましたが、フルカラーの本作ではそれがより顕著です。川名潤さんによるブックデザインも用紙の選択に至るまでぴったりはまっておりますので、ぜひ紙の本で読んでいただきたい作品です。
以前にこの連載でも紹介した、秋里和国先生の『都の昼寝物語』(小学館)の1巻が、9月10日に発売されました。「家計は隔月連載の原稿料だけじゃ自転車操業だ」「単行本も売れてないから印税も焼け石に水だし」「北里都! 本屋が選ばないくそ面白くない漫画ベスト3になら選ばれる自信ありまーす」「私もう41なの! がんばれないの! あなたみたいに大手出版社に定年まで守られてる人に落ち目のまんが家の気持ちなんてわからないわよ!」……ベテランマンガ家の生々しい心の叫びがなんとも味わい深い作品です。一方ではファンタジー要素(=イケメン)もありまして、楽しく読めるラブコメディに仕上がっておりますから、どうぞご安心くださいませ。
ほかにも9月は、8日に山本美希先生『ハウアーユー?』(祥伝社)、10日に河内遙先生『関根くんの恋』(太田出版)の最終巻、12日に東村アキコ先生『東京タラレバ娘』1(講談社)、22日に田島列島先生『子供はわかってあげない』上下(講談社)、25日に西村しのぶ先生『砂とアイリス』2(集英社)などなど、注目作が多数発売されます。要するに今月も大忙しなのです。
小田真琴(おだ・まこと)
女子マンガ研究家。1977年生まれ。男。片思いしていた女子と共通の話題がほしかったから……という不純な理由で少女マンガを読み始めるものの、いつの間にやらどっぷりはまって遂には仕事にしてしまった。自宅の1室に本棚14竿を押しこみ、ほぼマンガ専用の書庫にしている。「SPUR」(集英社)にて「マンガの中の私たち」、「婦人画報」(ハースト婦人画報社)にて「小田真琴の現代コミック考」連載中。