女子マンガで描かれる“女バトル”! 『夢の雫、黄金の鳥籠』こそ“女の総合格闘技!?
【雑誌】志村貴子先生の超絶技巧を見よ! 新連載『こいいじ』の凄み
「Kiss」10月号(講談社)
「ぷち・リニューアル」と銘打って大幅なページ数のアップに踏み切った「Kiss」10月号(講談社)ですが、注目すべきはそのボリュームよりもむしろ質です。志村貴子先生の新連載『こいいじ』の「語り」の鮮やかさに心底感服いたしました。
物語は、とあるお葬式の様子、そしてその1年後の新盆の様子から始まります。主人公の基本スペック、その想い人、彼の最愛の人が亡くなったこと、それから1年たったこと、彼には娘がいること、喫茶店を経営していること……などが淀みなく説明され、あっという間に物語が立ち上がります。次々と新たなキャラクターが登場しますが、法事の慌ただしさの中でさりげなく関係性が説明され、読む者の頭の中には、自然と人物相関図が描かれていくことでしょう。
連載の第1話はとても難しいものです。キャラクターを説明しなければならない、設定を説明しなければならない、かといって読者アンケートでも支持されなければならない……つまり「しなければならないこと」が多すぎるのです。この物語の舞台は、おそらくはそんなに大きな町ではないのでしょう。小さなコミュニティの中の関係性を描写するのに「法事」という舞台は最適です。そしてあらゆる登場人物は、基本的に主人公の想い人、聡ちゃんとの関係性において説明されます。聡ちゃんの亡き妻、聡ちゃんの娘、聡ちゃんの弟、聡ちゃんの弟の同級生、そして聡ちゃんのかつての想い人が主人公の姉だったという事実が明らかになったところで、第1話は終了。説明して回った挙げ句に最後は自らの元へと戻ってくるこの円環! そして見事な「引き」。なんという完璧な第1話でしょうか。続きが楽しみでなりません。
「BE・LOVE」(講談社)では、第16号より逢坂みえこ先生の新連載が始まりました。題して『おかあさんとごいっしょ』。ありがたくて鬱陶しい母娘の関係性を描いた作品ですが、冒頭のコメディタッチとは裏腹に、その筆はいわゆる「毒親」問題に踏み込んでいきます。「『お母さんが好き』。そう言えば一言ですむ。でも『お母さんが苦手』『しんどい』『重い』『はっきり言って嫌い』。そんなことを言ってしまうと『だってね』『でもね』『それにね』『いやわかってもらえないかもしれないけどね』。山ほど言い訳が必要な気がする。なんでかしらねえ。だれにかしらねえ。自分自身になのかしらねえ」。本質を深くえぐるが故に重さをまとったネームは、逢坂先生の真骨頂です。
「メロディ」10月号(白泉社)で『プリーズ、ジーヴス』が最終回を迎えた勝田文先生は、「ココハナ」10月号(集英社)で新連載『マリーマリーマリー』をスタートさせました。勝田先生が描くテキトー男の不謹慎な色気は、相変わらず絶品ですね!
小田真琴(おだ・まこと)
女子マンガ研究家。1977年生まれ。男。片思いしていた女子と共通の話題が欲しかったから……という不純な理由で少女マンガを読み始めるものの、いつの間にやらどっぷりはまって、ついには仕事にしてしまった。自宅の1室に本棚14竿を押しこみ、ほぼマンガ専用の書庫にしている。「SPUR」(集英社)にて「マンガの中の私たち」、「婦人画報」(ハースト婦人画報社)にて「小田真琴の現代コミック考」連載中。