「退職して田舎で母と暮らす」Uターン介護を決心した夫に戸惑う中国人嫁
■田舎に帰るくらいなら離婚する
横暴にも思える義母の行為だが、「和子」という“日本風”の名前にとりたてて不満を抱くことなく、たくさんの友人たちと日本での生活を楽しんでいた菅田さんだった。が、家族に変化が起きた。義父が亡くなったのだ。中国の父親は結婚して間もなく他界していたが、兄や姉が中国にいることもあり、年に1回ほど里帰りをして母親の顔を見る程度の関係ですんでいた。しかし、夫の父親が亡くなってはそうもいかなかった。2年ほど前のことだ。
「義母が元気だったので、義父の世話や看病はほとんど任せておけたのですが、問題は亡くなってからでした。一人暮らしになった義母は、それまでの心の張りがなくなったようで、急に『足が痛い』とか『食欲がない』とか言うようになってきたんです。義父がまだ長生きするつもりで大きな家を建てていたので、掃除とか庭の手入れをするだけでも大変です。でも代々続く家なので、義母をこっちに呼ぶわけにもいかないんです。主人の弟は独身で、やはり遠くに住んでいるからあてにならない。だとしたら、そろそろ子どもの手が離れる私しかいないじゃないですか。私は嫌ですよ。知り合いもいないあんな田舎で、義母の世話だけをして暮らしてなんかいけません。苦労してやっとここに自分の居場所を見つけたのに。だから、そうなったら離婚して中国に帰るって主人に宣言したんです」
「和子」と名づけたように、昔ながらの日本人嫁を期待している姑の気持ちは手に取るようにわかる。しかし、昔ながらの日本人嫁なんてもういない。さらに、中国人嫁は強い。どこまで本気かわからないが、「離婚して中国に帰る」と脅した菅田さんに、夫は最近ある覚悟を表明するようになった。
「仕事を辞めて、実家に帰ると言うんです。会社でももう先は見えているから、早めに退職して、実家で農業でもしながら暮らす。私はついて来なくていい、1人で帰るって。主人が九州に帰ってしまったら、いくら子どもたちがいるといっても、私が日本にいる意味はありませんよね。でも中国を離れて30年以上。もう私の知っている故郷ではありません。兄弟にもそれぞれの家庭があるから、迷惑はかけられない。結局、私の居場所はどこにもなかったってことなんだな、と今更ながら思っています」
妻は都会に残り、夫が親の介護をするため田舎にUターンする例を耳にするようになった。単身赴任の介護版だ。亭主元気で留守がいい、と割り切れる妻ばかりではないだろう。ましてや残されるのが外国人妻だったら? 和子、いや桂英さんの結論はまだ出ていない。