カルチャー
[サイジョの本棚]

友情と恋愛、道徳と背徳、同性愛と異性愛……恋愛に潜む曖昧さを浮き彫りにする5冊

2014/09/14 19:00

『恋愛論』(橋本治/イースト・プレス)

 略奪愛でなくても、恋愛の本質は排他的なもので、他者にとっては不快なものだ、と語るのは作家・橋本治。『恋愛論』は、「恋愛は個人的なことだから、一般論では語れない」という著者の持論から、自身の初恋について語りまとめたもの。1986年発売当初に多くのファンを生んだ本作が、『完全版』として復刊した。

 「恋愛は自分の足りないところを救ってくれる魔法ではない」「恋愛相手に出会えない人っていうのは、今恋愛なんかしなくたっていいい人」「誰にでも恋愛はできるなんてウソ」など、恋愛についてロジカルにテンポよく語るパートも魅力的だが、出版当時と比べると現代の恋愛観・結婚観が変わっていて、違和感を覚える部分がある人もいるかもしれない。

 しかし、同性をメインの恋愛対象とする橋本氏が思い入れたっぷりに語る高校時代の初恋は、そんな違和感も飛び越え、読者を「幸福以外はなんにもない」シンプルな恋愛の原風景に立たせてくれる。善悪や理屈でなく、ただ惹かれる人に出会ってしまう恋愛の業と幸福について、ドライな論理とウエットな感情、両面から語りこまれた1冊だ。

『リオとタケル』(中村安希/集英社)

 『恋愛論』出版から約30年たった今も、ほとんどの日本人にとって同性愛者は遠い存在で、友情と恋愛、同性愛と異性愛は迷うことなく別物だ。しかし、その境界線を考えることは、実は自分のためにも、とても大切なことかもしれない。そんなことに気づかされるのが、米国に住む一組の男性カップルを取材した、ノンフィクション『リオとタケル』だ。

 米演劇界の第一線で活躍し、現在は大学で教鞭をとるリオと、パートナーでデザイナーの日本人タケル。2人に学び、その人間性に魅了された日本人女性が、本人や周りの人々や家族に取材し、その半生を描き出していく。日本で生まれ育ち、同性愛を別世界のものと捉えていた著者は、リオとタケルの関係に理解を深めるにつれ、今までほとんど考えてこなかった、自分自身のセクシュアリティーに踏み込まざるを得なくなる。

 橋本氏の『恋愛論』もそうであったように、セクシュアルマイノリティー(性的少数者)と呼ばれる人々は、マジョリティーより、自分のセクシュアリティーと深く向き合うことが多い。「男だから」「女だから」で終わらせることができない彼らの持つ恋愛論は、時に悩み、戦い、傷つきながら獲得したものだからこそ、恋愛に悩む人々への示唆に満ちている。

 しかし、自分の性的指向について考え抜くことは、マイノリティーのための特権ではない。タケルが「セクシュアリティーは誰にでもあるもの」と語ったように、「異性が好き」だとしても、どこからを恋愛と捉えるのか、恋愛と友情の境界線はどこにあるのか、そこには無数の分岐があり、それは周囲に合わせるものではなく、自分で迷いながら選び取っていくものだ。

 本作には、セクシュアリティーについて考え直すための、たくさんのヒントがちりばめられている。著者と同じように、リオとタケルの生き方に魅了されながら、自分のための恋愛論を形づくることができるだろう。
(保田夏子)

最終更新:2014/09/14 19:00
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