「ジャニーズで歌うまい人」渋谷すばるによぎる、甲本ヒロトに“入り込む”姿への不安
今回ツッコませていただくのは、テレビ朝日の音楽フェス『テレビ朝日ドリームフェスティバル2014』に、関ジャニ∞というグループではなく、単独出演することが決定した渋谷すばる。
発表があるや、Twitterなどでは「すごいな」「アーティスト渋谷すばる始動!」などの声が続出していた。渋谷すばるというと、「ジャニーズの中で歌がうまい人」という話題では、必ず名前が挙がる1人。その一方で、実は歌唱力を疑問視する声も少なからずある。実際、ヤフーで「渋谷すばる 歌」を検索すると、「渋谷すばる 歌 うまい」「渋谷すばる 歌 ヘタ」と真逆のワードが候補に出る。
実は自分も、渋谷のことをずっと「歌のうまい人」と思っていたのだが、近年「あれ?」と思う場面が何度かあった。最近で「あれ?」を大きく感じたのは、『24時間テレビ 愛は地球を救う』(日本テレビ系)のときと、6月26日放送分『テレ東音楽祭(初)』(テレビ東京系)のとき。どちらも歌い出しで、音程が大きくズレ、それがあまりに堂々たる声量たっぷりの歌声だっただけに、楽器のチューニングができていないのかと思ったほどだ。
しかも、驚くのは、『テレ東音楽祭(初)』の方は、生ではなく、収録だったこと。出だしの音程を外したなら、録り直せば良いだろうに、何事もない感じで進んでいった。ネット上でも「すばる、歌うますぎ」という絶賛の声に紛れ、ごく一部「渋谷すばる 音痴wwww」という声がある状態になっていた。
この真っ二つの評価の分れ方って何なのだろうか。もちろん1つには、単純な「歌声の好き嫌い」がある。渋谷の演歌チックにも思える独特のこぶしのまわし方と、ハリのある歌声は大きな魅力だが、そのクセの強い歌い方に惹かれる人が多数いるのと同時に、こってり具合を「苦手」と感じる人もいる。好き嫌いの問題は、多分に生理的な部分があるので、賛否両論あるのはむしろ当然だろう。
だが、好き嫌いを除いて「うまい」と感じる人と、「ヘタ」と感じる人がいるのはなぜか。
渋谷の歌を「うまい」と感じる人たちの理由は、声のハリや声量があること、表現力、歌に込める思いの強さや、アイドルらしからぬ風貌・キャラクター性のせいもあるだろう。逆に、「ヘタ」と感じる人は、シンプルに「周囲の音との調和」において、渋谷の歌声を「不協和音」と感じるのだろう。グループ全員で歌うときに、良くも悪くも浮いてしまう自己主張の強さと協調性のなさが、最も歌唱力があるにしても、「異物感」となってしまうからだ。
実はそれを痛感したのが、2012年1月27日に放送された『ザ少年倶楽部プレミアム』(NHK BSプレミアム)の「渋谷すばる×ザ・クロマニヨンズのセッション」だった。尊敬するグループとのセッションが実現し、非常に緊張した面持ちで話し、懸命に歌う小さな子どものような渋谷の姿に、心打たれた人も多いはずだ。クロマニヨンズの4人が渋谷のうちわを持ってきてくれたことも、渋谷がキラキラの目でうれしそうにしていたことも、可愛らしい光景だった。
でも、甲本ヒロトによく似た歌い方で熱唱する、完全に入り込んでしまっている様子の渋谷を見て、えも言われぬ怖さや不安を感じてしまったのだ。ここまで心酔しきっていて大丈夫だろうか。どこに行ってしまうんだろうか……と。ときには、ほかのメンバーの声が耳に入らないんじゃないかと思うほど、1人際立ってアクの強い歌い方をする渋谷。それがいつの間にか、周りの音楽とも合わず、出だしで音程を外すことが増えているように思うのは、気のせいだろうか。
よもやほかの人の声も、楽器の音すらも耳に入らず、1人の世界になっているのでは……。渋谷には、自分にしか聞こえない音があるんじゃないか……。大きく音程を外す渋谷を見るたび、ザ・クロマニヨンズとセッションしたときの、濁りない純粋すぎるキレイな瞳を思い出し、なんだか不安で胸が締め付けられてしまうのだ。
(田幸和歌子)